新型コロナ禍での緊急事態宣言には確かな効果 総合地球環境学研究所

2020年9月29日 08:13

 新型コロナウイルスの感染拡大防止を目的とした日本政府の緊急事態宣言(4月6日発令、5月25日解除)に効果はあったのかー。一部の研究者間では宣言後に感染率が半減したと明確な効果が示された一方、大手メディアが首都圏では新規感染者の減少を促進させる効果は薄かったと報道するなど、未だに意見が分かれている。

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 そんな中、総合地球環境学研究所の研究チームは、宣言による外出自粛効果を調べたところ、宣言には外出抑制効果があり、その効果は宣言期間中が最も高かったと明らかにした。パンデミック下での外出を反社会的行動とみなす、社会的スティグマ(負の烙印)による心理的負担を考慮した数理モデルを使い、明らかにした研究成果で、外出自粛という同調行動を引き起こす政策でも十分に感染拡大防止策になり得ることを証明した。

 緊急事態宣言は4月6日、3月に改正されたインフルエンザ等対策特別措置法に基づいて発令され、各都道府県で、飲食店を対象にした休業や外出自粛要請が行われた。地方都市に感染が広がったことを受け、4月16日には対象区域が全国に変更。宣言期間は途中、19日間延長され、国内の経済やスポーツ、文化、教育など広範に影響を及ぼした。

 宣言の是非について様々な検証が行われているが、明確な答えは出ていない。効果を擁護する意見、反論する意見の両方が入り乱れているからだ。感染症予測モデルを用いた千葉大らのグループは6月12日、宣言後の感染率が宣言前と比べて40~50%減少したと発表。一方、日経新聞は5月27日付の報道で、政府の専門家会議の資料をもとに、首都圏を中心とした関東地方で新規感染者の減少を促す効果は乏しかったと報じている。

 宣言の効果検証が十分と言えない中、総合地球環境学研究所の研究グループは、スティグマによる心理的コストの要素を加味した上で、法的拘束力の有無という観点から宣言の効果を明らかにすることにした。外出行動の意思決定を左右する因子には、スティグマのほか、天候などの外的要因を加え、宣言は外出行動の減少につながったかどうかを検証した。

 理論モデルと実際のデータを用いた実証分析の結果、宣言は法的拘束力は有しないにも関わらず、外出抑制の効力があることが明らかになった。また、外出行動に影響を与えるほかの要因をコントロールした状況に置いた分析も行い、宣言が発令されている状況下では人の流動が抑えられていたほか、宣言解除後も自粛の効果が継続されていたものの、抑制のレベルは宣言下の方が大きかったことがわかったという。

 研究グループは、経済損失とのバランスを考慮した感染拡大防止策として、「(今回の研究成果が)より法的拘束力の強い政策を検討する根拠となる」と強調。今後は、外出行動に伴いスティグマのみならず、感染者に対するスティグマも考慮した上で、感染者と外出者数の相互関係を分析し、給付金やベーシックインカムといった政策効果や制度設計の是非についても検証するという。(記事:小村海・記事一覧を見る

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