実践トヨタ生産方式 (1) 「トヨタ1強」は「1歩でも前へ進む気持ち」から生まれた
2020年9月24日 07:54
トヨタの豊田章男社長は、「もっといいクルマをつくろうよ!」と呼び掛けている。一方で、ドイツが先陣を切ってインダストリー4.0(第4次産業革命)を進めており、BMWは100通りものオプションを自由に組み合わせてネットで注文できるシステムを作ろうとしている。つまり、「オーダーメイド」の商品を「量産品の値段で提供」しようと言うのだ。
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それも、顧客がネット注文すると、世界中の生産拠点のうち最適の地域で生産し、最短の納期で提供しようと言うのだ。これにはAIがなければ生産手配は出来ない。ネット技術とAIの進化が背景となっている。しかし、トヨタは現場を統括してきた元副社長・河合満氏を重用し続けている。
「トヨタ生産方式」は体系が出来上がってきているため、今からこれを知ろうとすると学問的な見方となってしまう。学問的な勉強は必要なことではあるのだが、単に知識として取り入れようとすると「人間のメカニズムとして理解する」ことを忘れてしまうのだ。すると、「トヨタ生産方式」は実践的な技術であるので、形骸化を呼び導入に失敗してしまう。大事なポイントは、社員の「1歩でも前へ進む気持ち」なのだ。それが、トヨタが河合満氏を重用する理由だ。
参考文献: 平成 15 年度日本機械工業・再活性化のための調査(社団法人 日本機械工業連合会)
「クルマは造り方を売っている」と言ってよいほど、造り方が企業業績に明らかな差を作っている。コロナ禍で、自動車産業界においては「トヨタ1強」と言えるほど他社との差が出ている。何がその差を作っているのか?それは、意外なことに社員の「心の持ち方」にあるのだ。企業は、「経営トップの強いリーダーシップ」と「作業員からの正直で前向きなボトムアップ」がなければ成り立たない。
自動車産業界の各分野の専門家たちでさえ、「生産技術」についてほとんど知らないことに最近気付いた。「AIを用いたモデルベース設計を進めれば、現場・現物主義など無用だ」、「カイゼンなど小さなことを行っているから改革が出来ないのだ」など、大学教授など専門家を自負する人々からトヨタ批判の辛辣な言葉が聞かれる。
45年ほど前からトヨタ生産方式と同様の考え方を模索していた者として、あまりにも間違った認識で多くの人々が「トヨタ生産方式」を見ていることに我慢がならなくなってきた。「生産技術」の基本は「誠実・正直・素直」だと言ったら、「まさか!」と皆は考えるのだろうか?おそらくは8割以上の人々が「疑問符」を付けるのであろう。
参考資料: トヨタの副社長、河合満の日常(トヨタ自動車)
河合氏の役割は、「トヨタ生産方式」の基礎となっている。その泥臭さを理解できなければ、「生産技術」の本質を理解することは出来ない。これは経験者として断言する。トヨタで河合氏の果たしてきた役割はかなり難しく重要で、これが出来ないから世界の多くの企業が「トヨタ生産方式(アメリカ名:リーン生産方式)」導入に失敗していると言えるのだ。
つまり、「学問的捉え方」では「トヨタ生産方式」を実践することが難しいことを、ぜひ理解してほしい。社員のライフスタイルの中に取り込まれていることが必要なのだ。言い換えると、「昨日より今日、今日より明日」と絶え間なく前進する気概が最低限度必要であるのだ。これを社員全体の気持ちにさせるには、河合氏のような役割を誰かが果たさねばならない。
それを「働く社員の希望」に据えた豊田章男社長の施策を称賛せねばなるまい。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る)