FRBの政策目標変更とゼロ金利政策の弊害 後編
2020年8月31日 16:35
さらに、FRBの政策目標の変更が、思いのまま物価上昇につながるかといえば疑問が残る。物価上昇率には需要の増加などの要因も含まれるためだ。日本銀行が長期に渡る金融緩和を行い続けても、目標とする2%の安定的な物価上昇率に及ばないころからも良く分かるだろう。
もちろん、日本の場合には長期に渡るデフレマインドが染みついていたという理由もあろう。アベノミクスで株価が高騰し、最低賃金が上がり、失業率も下がっているものの、景気が良いという実感が無い。その結果、企業は積極的に設備投資せずに内部留保し、個人も100円ショップで商品を買い求め、インターネットで最安値を探す。購買意欲が希薄で需要につながらなけば、日本銀行の利下げが物価上昇に至るはずも無いのだ。
他方で、FRBのゼロ金利政策の長期化はドル安にもつながることを忘れてはならない。ドルが市場に溢れることで、新興国などから資金が引き上げられていくリスクは避けられるものの、日本などの先進国の場合、通貨高のリスクにさらされることにもなる。悪いドル安の影響だ。
FRBの追加策の発表後、アメリカ株式市場の上昇や金融政策の限界という背景を元に、ドル円は円安方向に大きく振れ、一時107円近くまで急騰したが、翌日の安倍首相辞任というネガティブリスクをきっかけとして、本来の円高ドル安方向に一気に値を戻した。8月28日の終値は1ドル105.3円付近だった。
ここ数年間死守してきた104円~105円ラインを容易に割ってくるようであれば、輸出産業が支える日本経済にとっては、コロナウイルス禍だけではなく、円高リスクも直撃する。円高は、今後復活が期待されるインバウンド需要にも重しとなっていくだろう。
これまでアメリカファーストを掲げるトランプ大統領のプレッシャーに、FRBは緊急利下げなどの緩和措置を強いられてきた。ドル安が世界経済にどのような弊害をもたらすかを考えながらも、FRBは今後も様々なプレッシャーの中、金融緩和を続けざるを得ないだろう。今後のFRBの采配に注目したい。(記事:小林弘卓・記事一覧を見る)