染色が難しいポリプロピレン繊維の染料を開発 福井大など
2020年8月25日 19:07
福井大学と金沢工業大学、有本化学工業の3者は20日、繊維構造の複雑さからこれまで染色が困難だったポリプロピレン(PP)繊維の染色に成功し、特許を取得したと発表した。水を使わず、高温度・高圧力を与えた二酸化炭素が蔓延する空気中で染める技術を導入した。
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今回の研究成果を皮切りに、これまでPP繊維があまり使われてこなかったアパレル業界、スポーツ衣料といった分野での展開が期待される。
PP繊維は、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンと並ぶ4大汎用樹脂の1つ。化学繊維の中で最も軽く、速乾性や保温性に優れ、主原料も安い利点がある。アンダーウェアなどの衣料だけでなく、食品包装フィルムや寝具、家電製品など幅広い分野で使われている。
一方で、PP繊維は繊維構造が緻密で、既存の繊維と違い染色と結びつく場所「官能基」が全くないため、大量の水を使う一般的な技法では、染色が難しいというデメリットがあった。水に溶けない顔料を使用する方法もあるが、太いPP繊維に限られ、色数も制約があり、衣料品に合った染色法ではなかった。
そこで研究グループは、PP繊維への親和性が高いキノン系の原子を導入し、PP繊維を染色しやすい仕組みを構築。さらに、二酸化炭素を温度120度、250気圧にした超臨界流体と呼ばれる状態の圧力釜の中で染色を行い、新規染料として赤、青を獲得した。
染色は従来、水を媒介として行われてきたが、廃液処理や多量のエネルギー消費といった問題が山積している。これらの問題解決に向け、1991年にドイツで開発されたのが、超臨界状態にした二酸化炭素を媒介に使う超臨界染色法だ。
廃液が出ず環境に優しい上、過剰な染料を回収できるなどの実用的な利点があり、今回の研究に参画した福井大が中心となって1996年から実用化を進めてきた。
超臨界染色法は、染料が超臨界状態の二酸化炭素に溶ける過程、染色対象とする繊維の表面に染料が吸い着く過程、染料が繊維中に広がる過程、染色後に繊維中に溶けた二酸化炭素が抜けて繊維が元の形に戻る過程からなる。今回の研究でも同様の手法が取られ、洗濯しても色落ちにしにくいなどの成果が発見された。
今回の研究により、既存の黄色と合わせて赤、青、黄の3原色が揃った。さらに今後は紫と緑の合計5色、7種の染色を販売展開する計画で、ポリプロピレンの適用分野拡大を目指す。(記事:小村海・記事一覧を見る)