アズワンがECに注力する理由
2020年7月31日 18:21
Eコマースの導入で成長。メディアでそんな見出しに接する機会が増えた。失礼ながら、信じられない事例にも出会う。
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アズワンなどそんな1社。「理化学機器」(ビーカー、フラスコ、計測機器、試薬)/「医療・介護用品」(ストレッチャー、聴診器、手術用品、調剤用品)の卸売業者。全国4000社余の販売代理店を経由して、大学や企業の研究機関/医療機関などの約86万人の研究者に商品を提供してきた。
主軸のビジネスモデルは(分厚い)カタログを介した通販。代理店から注文を受けると、国内3カ所の物流拠点から出荷。当日の出荷率は95%に達するといった具合。結果、理化学機器の卸市場では35%という高シェアを誇ってきた。
アズワンを知るベテランアナリストも「前3月期の売上高総利益率31.2%、売上高営業利益率12.1%。カタログが営業マンの役割を果たし販管費を抑えている点、消耗品を中心に利益率が高いPB商品の寄与による」と説明する。
そうした限りでは「EC云々」の見方は聞こえてこない。が、詳細は後述するが同社は前期までの5カ年中計の柱とし、「ECを新たな成長の糧」と位置付けて取り組んできた。現に2015年3月期には41億円だったECによる売上高は、前期133億円と3倍以上に増えている。コツコツと積み重ねてきたEC戦略は、以下のような次第だ。
★ocean: 大規模事業者向け集中購買システム。ユーザーの社内購買システムにアズワンの電子カタログを接続し、各事業拠点の購買を一括管理する枠組み。
★AXEL: Web販売サイト。これまで販売代理店がカバーできなかった小規模事業者に販売網を広げる目的で展開を開始した。
販売の主体だった代理店に累を及ぼさない範囲での展開である。だがアズワンはECに踏み出すことで「カタログ通販では及ばない、取扱商品の拡大」を実感した。14年3月期には約7万点だったものが、前期末には約420万点になった。
そうした推移から、今期から始まった至25年3月期の5カ年中計で主要施策に「新EC購買システム」を始動することを決めた。「Wave」。販売店向けEC購買システムである。販売店は自社サイトを作ることなく、これまでは対面販売をしてきた小・中規模事業者に対して専用EC購買が提供できる。
アズワンでは25年3月期のECの売上高を、前期比96%増の260億円と計画している。そのうえで、25年3月期を「総売上高1000億円、売上高営業利益率12.5%、ROE12%」と想定している。
基盤のビジネスモデルを継続しつつ、ECで一段の成長を図るという次第だ。(記事:千葉明・記事一覧を見る)