日産の戦略車「アリア」は「戦略のトヨタ」と「取りあえずの日産」の差を解消できるのか? (1)
2020年7月15日 18:17
■日産の戦略車「アリア」
日産自動車は、BEV(純電気自動車)でSUVの「アリア」を7月15日に発表した。日産・リーフに替わる日産EVを象徴する存在となる。前後に2つのモーターを配する4WD、「e-4ORCE」である。
システム最高出力は309馬力、最大トルクは69kgmと超強力だ。このパワーをもってすれば、スポーツカー並みの動力性能となる。恐らくは0-100km/hが5秒台であろう。街乗りでは大変使いやすいトルクであるが、日本の高速道路100km/hの巡行であれば問題ないであろう。
問題は、最高速度が200km/hの日産・アリアが、ドイツなどのヨーロッパでは、巡航速度200km/hの能力が当然に要求されてくることだ。この場合は、リダクションギアを最低でも2段にする必要がある。「全長4595×全幅1850×全高1655mm、ホイールベース2775mm」のボディサイズであると、リーフe+GのWLTCモードで458kmの航続可能距離を超えるには、62kWhのリチウムイオン電池容量をかなり超える必要があるだろう。
■7月15日発表されたアリアの仕様
●2WD車
・65kWhバッテリー搭載車: 最高出力160kW、最大トルク300Nm、最大航続距離450km
・90kWhバッテリー搭載車: 最高出力178kW、最大トルク300Nm、最大航続距離610km
●e-4ORCE車
・65kWhバッテリー搭載車: 最高出力250kW、最大トルク560Nm、最大航続距離430km(0-100km加速5.4秒、最高速度200km/h)
・90kWhバッテリー搭載車: 最高出力290kW、最大トルク600Nm、最大航続距離580km(0-100km加速5.1秒、最高速度200km/h。プロパイロット2.0を標準装備)
アリアの4WD「e-4ORCE」は、機械式4WDとは異なる。センターデフの多板クラッチなどを用いて4輪の駆動力を制御するのではない。電気モーターの制御になるため、走行性能の制御においても機械の動作タイムラグもなく、微妙な制御が出来ることを考えると、走行性能はかなり高い能力を持たせることが出来るのであろう。
気になるところは、回生ブレーキの使い方で ❝リアモーターも併せて、車体姿勢の変化を抑え、渋滞時でも揺れを抑える❞ としたところだ。リーフはFFで発進時などに直進性が失われ、全力加速をすることが出来ないほど、モーターの低速トルクを制御できていなかった。
回生ブレーキはFFでは前輪にだけ掛かることとなり、油圧ブレーキと併用して「協調ブレーキ」としなければ、姿勢が安定しない。それは出来ているはずだが「回生ブレーキだけで停止している」とした説明が、現場でユーザーに行われてきたことは訂正すべきである。
GT-Rの4WD「ATTESA E-TS」との技術的つながりも、正確に広報しないと、大きな誤りとなってしまう。「e-4ORCE」は、機械式4WDではないため、「4輪の制御の仕方を、GT-Rなどの知見を基に、制御ソフトを組んでいる」が正しいコメントではないのか?あまり「宣伝効果を狙いすぎ」ては、ウソになってしまう。
しかし、かなりの自信作であることがひしひしと伝わってくる内容だ。その実態を確かめることが出来ることを楽しみにしよう。
このクラスでは、ジャガー・ Iペース「S」、メルセデスベンツ・ EQC400・4マチックなど1千万円クラスの強力なライバルが存在するが、500万円の日産・アリアはこれらのプレミアムカーに負けない実力を見せてくれるだろうか。アリアには、本格的なEVの登場を印象付けられることを期待したい。
そして、トヨタの戦略的動きに対して、日産が本格的にEVで戦略的ビジネスモデルを構築していくことを期待したい。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る)