銀河系で発見された銀河系に由来しない数々の天体 テキサス大学の研究
2020年7月9日 11:09
私たちが夜空を眺めている際に目に飛び込んでくる天体は、アンドロメダ座の大星雲M31のような銀河系外の島宇宙を除けば、すべて銀河系内に属する天体である。これはごく当たり前の話なのだが、かといってこれらの天体すべてが銀河系で誕生した存在であるとは限らない。
【こちらも】太陽系は銀河同士の衝突の産物だった? 欧州宇宙機関の研究
7月6日にNature Astronomy誌に掲載されたテキサス大学の論文では、最近発見されたNyxと呼ばれる恒星流が、かつて銀河系と衝突した矮小銀河の名残として確認された初の存在であることが示されている。
ところで矮小銀河とは、数十億個の恒星からなる銀河系と比較すると、数百分の一程度の規模の銀河を指す。宇宙ではこのような小さな銀河が、大きな銀河の周りを周回しているケースは非常に多い。我々の銀河系の周りにも12個の矮小銀河が周回していることが現在判明している。
また恒星流とは、矮小銀河が銀河系に接近した時にできる一種の潮汐流で、その流れを構成しているのは言うまでもなく多数の恒星たちである。
銀河系にはいくつもの恒星流が存在しているが、これらを構成している星々はみな、銀河系に由来する星ではなく、矮小銀河に由来するものである可能性をテキサス大学の研究者らは主張している。彼らは銀河系にある恒星と暗黒物質との間に作用する重力を想定した数値解析シミュレーションを実施し、恒星流の動きを時間的に逆算してこの結論に達している。
実は恒星流Nyxの発見には、欧州宇宙機関(ESA)によって打ち上げられた探査機ガイアによる観測データが役立っている。ガイアが打ち上げられた目的は、銀河系にある数多くの恒星の位置を正確にマッピングすることであった。これまでに約10億個にも及ぶ恒星の位置を正確にマッピングしているが、その中の700万個は他の恒星とは異なる3次元的な移動速度を持った存在であることが判明している。それが恒星流Nyxなのである。
これらの星がなぜそのような3次元的な移動速度を持つのかを、数値解析によって様々な条件でのシミュレーションを試みた結果、Nyxの特異な移動速度成分の発生原因が矮小銀河の衝突による潮汐流であったとの結論に達したわけだ。
以前の記事で、太陽系が誕生したきっかけは矮小銀河の衝突が原因であったことを紹介したが、この事件が起きたのは少なくとも今から60~100億年前のことである。だが恒星流Nyxを生じさせる原因となった矮小銀河の衝突がいつ起きたのかを正確に突き止めるためには、数値解析だけでなく、精密な観測データを積み重ねてゆく必要がある。
大規模な数値解析と膨大な数の観測データの組み合わせによって、これからも様々な銀河の謎が解明されてゆくことだろう。(記事:cedar3・記事一覧を見る)