光を活用して脳の神経細胞を操作 サルの手を動かす 世界初 生理研ら
2020年7月3日 07:41
生理学研究所と東北大学の研究チームが、オプトジェネティクス(光遺伝学)と呼ばれる技術を使い、サルの手を動かすことに世界で初めて成功した。遺伝子工学と光学を組み合わせて神経細胞の集まりを観察したり、制御したりする光遺伝学は、急速な発展を続けるバイオ分野の技術の1つで、今回の研究成果が脳神経科学研究や医療への応用を見込む後発研究に大きな影響を与えそうだ。
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光遺伝学は、光照射のオン・オフによって活性化するロドプシンタンパク質などを、特定の細胞に発現させ、その機能を光で操作する技術を指す。光照射によって、特定の神経活動を高い精度で正確に操作でき、その機能操作によって神経活動と行動発現の関係性を明らかにできる利点がある。この分野の基礎研究が発展すれば、光を使い脳と直接情報をやり取りする、ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)技術が誕生すると言われている。
一方、光遺伝学の研究は現在、成功体験の少なさや技術的な障壁により、進展が滞る。将来的に人への応用を進めるためには、人に近い霊長類で光遺伝学を活用する必要があるが、過去の成功体験の少なさから、その活用は限定的。さらに、光照射による神経細胞の活動操作に不可欠で、光で活性化する膜貫通タンパク質・チャネルロドプシンが、先行研究において、技術的な問題によりサルの脳内に効率的に発現させられなかった。
そこで研究チームは今回、未踏の領域に踏み込んで研究領域全体の進展を図ろうと、新たな研究条件を設け、実行した。
まず、チャネルロドプシンを神経細胞に効率良く発現させることを狙い、アデノ随伴ウイルス(AAV)に由来するベクターを、被験体であるサルの脳の大脳皮質運動野に投与した。すると、蛍光顕微鏡の観察で、AAVベクターを投与した神経細胞の部位が緑色に発光し、チャネルロドプシンの発現が確認された。
さらに、チャネルロドプシンが発現している大脳皮質運動野の神経細胞に、独自作製の電極を挿入して光照射をし、サルの手を実際に動かせるかを検証。その結果、光の作用で運動野の神経細胞が興奮し、目視で確認可能なレベルでサルの手の運動を起こすことに成功した。また、光照射による手の運動制御は、電気刺激で起こされる運動制御と同程度の高いレベルで活動が生じたという。
研究に参画した生理学研究所の南部篤教授は、「今回の研究成果は、光遺伝学の霊長類への適用の扉を開くもので、さらに、光による脳深部刺激療法などヒトの病気治療への応用につながる可能性がある」と述べた。研究成果は、Nature Communications誌で公開されている。(記事:小村海・記事一覧を見る)