三菱・スペースジェット、開発の行方は? (3) サプライチェーン構築と維持

2020年7月2日 07:52

■サプライチェーン構築と維持

 航空機業界は高度な知識と技術が多くの分野で必要と言われてきた産業であり、「知識集約型産業」と呼ばれる。それは、高度な品質保証を要求され、自動車産業とは2ケタ違う低い不良率を求められるからだ。当然に、サプライヤーは厳選されたものだけが参加できるのであり、三菱航空機・スペースジェット開発計画でも激しい争いが行われてきたのが事実だ。

【前回は】三菱・スペースジェット、開発の行方は? (2) Y-X計画とボーイングの圧力

 自動車に比べて「補給部品」は、航空機の運航を支える重要な事業だ。クルマでは「故障したら直せばよい」と言った気楽な整備の分野でも、航空機では事故に繋がる場合が多くなり重要な問題だ。そのため「整備システム」は厳格に取り決められており、精度も要求される。サプライヤーも当然に品質保証の精度はクルマの比ではなく、要求されるレベルが高い。

 「協力会」と呼ばれる「サプライチェーンの企業」の集まりがあるのが普通だが、三菱重工も旧MRJ開発計画が始まってか、そうした協力会を持っていた。それを計画が進むにつれ、解散や新規に組織するなど更新を続けてきているはずで、6回の納入開始延期でも維持するのは苦労していることだろう。

 私の会社は、ある建設車両メーカーの協力会の会長を務めてきた経験があるのだが、「協力会」の内情は、やはり利権闘争が激しく、仕事の分担を一種の利権として捉えて運営されているのが常である。そのため、情勢が変化し、新技術が導入されるべき場面でも、旧態依然として旧来の利権を確保しようとして、あつれきが生まれるのも事実である。

 スペースジェット開発計画では、これまでの人材で型式証明が取れるとしてきた方針により、ボンバルディアの人材を登用しなければならないことになってきたように、サプライチェーンも国内業者から海外のメーカーにも広がる結果となり、混乱が生じたことであろう。

 自動車産業でも、サプライチェーン構築には同様の問題を常に抱えており、それをコンロトールするのもメーカーの経営手腕であると言える。さらに、航空機のような大きなプロジェクトとなると国際問題が絡み、技術的検討だけでは結論が出ない政治問題が絡んでくる。

 「日本の翼が蘇るか否か」は、国家間の裏事情も含めて国際問題なのだ。スペースジェット開発計画が成功するか否かは、日本政府の姿勢が揺らいではならないのだ。そして、サプライチェーンから外されていく地元の中小業者が、高い技術力を保持し続けていける施策も必要なのだ。そうしなければ、「日本の翼」は維持できないことを政治家・官僚は知ってほしいものだ。

 それはちょうど、トヨタ自動車がAIロボットの時代になっても、その基礎となる切削技術を保持するために、わざわざ学校を設立して職人芸を保存しようとしていることに通じる。グローバル経営者には、制御ソフト開発全盛の時代にあろうとも、是非とも理解してほしいポイントだ。ホンダの利益率の悪い原因でもあるのだから。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る

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