ゲノム編集技術応用し新型コロナを迅速診断 簡易装置で最短40分 東大など

2020年6月10日 07:24

 東京大学医科学研究所の真下知士教授らが、ゲノム編集技術「CRISPR-Cas3(クリスパー・キャス3)」を用いて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を迅速に検出する診断法を確立したと発表した。

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 診断法は名付けて「CONAN法」。一般的な試薬や試験紙、保温装置を使う簡単な手法で、ウイルスRNAの有無を最短40分で判定可能。唾液を使って感染を調べるPCR検査法と同レベルの高感度という。

 研究成果は、初期の研究成果を公開するWebサイト「BioRxiV」に掲載された。今後はこの方法をキット化し、医療現場で簡易的に使用できる臨床現場即時検査(POCT)迅速診断薬として実用化を進める。

 クリスパーキャス3は、2019年12月に開発された生物の遺伝子を改変できるゲノム編集の新たな手法。病気の研究や農作物の品種改良などに世界中で利用されているクリスパー・キャス9に比べ、より多くの塩基配列を編集できる上に、狙った塩基配列以外を編集してしまう「オフターゲット」のリスクが少ないのが特長だ。従来よりも安全性が高い日本発の技術として、創薬や治療、農産物など多様な分野への応用が広がっている。

 クリスパーキャス3が今回、COVID-19の診断法開発に活用されたのは、標的とするDNAを編集する手法の違いに端を発する。

 細菌、古細菌に存在する自然界の獲得性免疫システムから転用して開発されたゲノム編集技術「クリスパーキャス」は、タンパク質の切断方法によって大きく2つに分かれる。複数タンパク質の複合体でDNAを切断し原核細胞や古細胞を対象とするクラス1と、1つのタンパク質で切断しヒトなど真核生物への応用が可能なクラス2で、クリスパーキャス3は、前者のクラス1に分類される。

 そのことから、真下教授らは今回、ヒトのDNAを構成する核酸を宿主とするCOVID-19の診断に有用かどうかを調べた。

 COVID-19患者由来のサンプルを用いた実験では、患者や健常者に鼻腔の奥をぬぐった検体を提供してもらい、クリスパーキャス3の効果を調べた。その結果、陽性一致率は90%、陰性一致率は95.3%を記録。PCR検査法とほぼ同等の検出感度、検出特異度が確認されたという。

 CONAN法は微量のウイルスRNAを検出可能で、現行のCOVID-19診断法が抱える欠点を補完する可能性が高い。例えば、ウイルス検出までの時間は、PCR検査法が4~6時間から場合によっては1日かかるのに対し、CONAN法は最短40分。

 さらに、PCR検査は専門的技術や解析機器が必要なため特定の検査機関で実施されるが、CONAN法は試験紙など簡便な装置が必要なだけで、場所も問わない。野外や空港などにおける迅速検査が可能だ。

 研究チームは今後、クリスパー・キャス3のライセンス事業などを行う大阪大学発ベンチャー、C4Uを通じて、医療現場で使用できる検査キットを開発する。また、インフルエンザA型についても検出に成功しており、新しいインフルエンザ診断法の開発も同時に進める。

 ゲノム編集技術によるCOVID-19検査では、米マンモス・サイエンス社が「クリスパー・キャス12」を用いた検査法を考案し、米食品医薬品局(FDA)の緊急使用許可を得ている。(記事:小村海・記事一覧を見る

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