オゾンによる新型コロナの不活化を世界で初めて確認 奈良県立医大の研究
2020年5月29日 17:16
奈良県立医科大学(橿原市)の矢野寿一教授(微生物感染症学)らのグループが、除菌効果があるとされてきたオゾンに、新型コロナウイルスの感染力を失わせる不活化の効果があることを世界で初めて確認した。実証実験での成果証明で、研究グループは今後、感染力の低減効果が人に対して見られるかどうかを検証し、病院や診療室といった医療現場に応用していくとみられる。
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オゾンは、酸素原子が3つに結合した状態を指す。フッ素に次ぐ強力な酸化力を持ち、その酸化力で細菌などの細胞を破壊したり、物質と物質の化学的な結合を分解したりする。脱臭や殺菌、洗浄に効力を発揮し、医療・介護・酪農・食品など多分野に活用されている。
オゾンの効能でも、塩素の7倍という殺菌力は感染症対策に「特に有効」と目されてきた。国内で初めて実導入したとされるのは総務省消防庁で、2008年に新型インフルエンザ感染防止対策の一環としてオゾン発生器の一般入札を実施。主要空港での配備を可能にした。以降、医療現場への応用も進み、院内感染の拡大防止を目的にオゾン発生器を導入する医療機関が増えている。
オゾンを利用した殺菌アプローチは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染対策でも受け入れられた。感染が世界に広まりつつあった今年1月頃から、医療機関のみならず、救急車や病院、ホテルなどがオゾン発生器を採用。手作業によるアルコール手拭きなどに匹敵する効果的な除菌方法として、広まった。一方で、オゾンの除菌能力に医学的エビデンスがなかったことが問題視されていた。
そうした中、奈良県立医大の矢野教授らは、大手調剤薬局や大手商社などでつくる民間のコンソーシアムと連携し、除菌メカニズムの解明に挑んだ。実験条件は明快で、オゾン発生器を稼働させ、オゾン濃度を1~6ppmに保ったアクリル製の気密ボックス内で、ステンレスプレートに塗布したCOVID-19に不活化効果が見られるかどうかを検討した。
すると、感染力が、オゾン濃度6ppmで55分暴露した状態で最大1万分の1、オゾン濃度1ppmで60分暴露した状態では最大100分の1まで低下。前者の感染力の低減幅は、ウイルスの感染力がほぼ消失した状態に相等するという。
オゾンの明快な除菌効果を証明できたことから、矢野教授らは「オゾンの実用的な条件下で、新型コロナウイルスを不活化できる」と結論付けた。現在、COVID-19の消毒はアルコールや次亜塩素酸ナトリウムで拭き取る方法が主流だが、「それらに加えてオゾンの気体を吹きかけて使えば、労力を減らし効率的な消毒ができる」と報道機関の取材に答えている。
国内では他に、東京経済大学の周牧之教授(中国経済論)が、湖南省の民間複合企業・遠大科技集団の関係者らとともに、オゾンを利用したCOVID-19の収束メカニズムの解明に取り組んでいる。(記事:小村海・記事一覧を見る)