生きた植物乳酸菌との同時摂取でアルコール中毒症を回復、広島大が発見
2020年4月15日 20:13
厚生労働省の実態調査では、国内に4万人超の患者数がいるアルコール依存症。ベンゾジアン系の睡眠薬・抗不安薬の摂取などの対症療法はあるが、断酒以外に決定的な治療法がないのが実情だ。そんな中、広島大が4月10日、植物乳酸菌の一種をアルコール(エタノール)と同時に摂取させると、アルコール依存に似た症状が回避されることを発見したと発表した。禁断症状を引き起こしやすい従来の薬物治療に代わる新薬の開発に期待がかかる。
植物乳酸菌は、ラクトバチルス・プランタルム(通称:プランタルム菌) SN13T。耐塩性を持つことから、漬物類の発酵に役立てられているほか、ブドウ酒の酸味調節など、様々な食品に利用されている。腸管免疫力を高めたり、有害物質を減らしたりする健康効果があるとされるが、医薬品への応用は限定的だ。
そんなラクトバチルス・プランタルムを予防医療の研究に取り入れようとしたのが、同大に設置されている産学の研究組織「未病・予防医学共同研究講座」。これまで、SN13T株を使って製造されたヨーグルトの経口摂取が、肝機能不全の指標となるy-GTP値を低下させるという学術研究成果を収めたことがある。この応用研究の一環として数年前から、SN13Tの生菌体が、アルコールによる肝機能不全を回避できるプロバイオティクス(体に良い働きをする生きた微生物)として機能するかを調べており、このほど顕著な成果を特定した。
発表した研究では、被験体のマウスをエタノールを含む食餌で2週間飼育。エタノールのみの摂取群では、体組織の腐敗時に生成されるカダベリンやチラミンなどのアミンが増加した一方で、エタノールとSN13T生菌体を同時摂取した場合にはそれらの作用が抑制された。アルコール成分は肝機能に負担を与え、重篤化するとアルコール性脂肪肝となって肝臓の細胞を破壊するケースがあるが、植物乳酸菌がアルコール飲酒に伴う肝障害の進行を抑える働きがあると考えられる。
これまでの腸内細菌学研究では、人を対象にした臨床研究において、サッポロビールの乳酸菌バンクで探索された「SBL88乳酸菌」を投与することで、アルコール性肝障害の症状が緩和される研究結果があったが、プランタルム菌でそうした免疫賦活作用を実証したのは初とみられる。
同大では、同時期に類似研究として飲酒時にバナナの葉由来の乳酸菌を生きた状態で一緒に取ると、肝機能の低下を抑える効果があるとの研究成果を発表しており、植物乳酸菌の研究と併せて開発を進め、サプリメントと医薬品の開発を推進させる模様だ。なお、今回の研究成果は、「International Journal of Molecular Sciences」に詳細を掲載している。(記事:小村海・記事一覧を見る)