ホームレスに部屋を貸すオーナー
2020年2月16日 18:23
入り口となった情報は、娘が嫁いでいる福岡県庁に勤務する義理の息子からだった。
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「お義父さん、佐賀県にホームレスに部屋を貸しているオーナーがいるそうですよ」。この限りでは「?」な話としか思えなかった。何故なら「現住所(住民票)」を持たない者が、賃貸住宅の契約など結べるはずがないからだ。
だが件の息子は真面目な官吏で、いまは県庁から派遣され福岡知事の秘書役に就いている。嘘を言うような男ではない。とにかく調べてみようと思った。賃貸住宅市場に詳しい専門紙の記者に「本当!?」と尋ねた。答えは「いらっしゃいますよ」とのこと。
そのオーナーは佐賀市で賃貸住宅を営む、鐘ケ江丈弥氏。元不動産会社に勤務、賃貸の仲介を担当していた。部屋探しに訪れるホームレスと向き合う機会が少なくなかった。
だが会社の方針もあり、住所不定の者に斡旋はできなかった。肩を落とし去っていく姿に心が痛んだという。
それがキッカケとなり「それなら自分が」と15年程前に、8室中6室が空室だった築30年のアパートを買った。いくらで購入したかは「事故物件(そのわけは不明)」ということもあり、鐘ケ江も「割安だった」としか明かしていないという。
が、その分、家賃も3万円程度。住人の大方が(元)ホームレス。2年後くらいから、満室状態が続いているという。
鐘ケ江氏のビジネス展開は、こんな具合。ホームレスと賃貸契約を結ぶ。そのうえで、現住所ができた元ホームレスと地元の自治体に出向き、「生活保護」の申請を行う。仕事をして収入を得ているホームレスなど、まずいない。家賃を含む生活の原資を確保させるためだ。
表現は適切でないかもしれないが、元ホームレスが「かつての仲間(ホームレス)の面倒を見てくれないか」という流れが自然に出来上がっていった。
以前にも記したが憲法25条は、「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定めている。それを支えるひとつの制度が「生活保護」である。厚労省の集計によると、昨年10月末の生活保護受給者は約209万人。
生活保護の受給に当たっては、それなりの制約を受ける。仕方がないと思う。だがまだ「働こう」という気力・体力を削いでしまうような制約には、疑問を覚える。
地域の現状を背景に「最低限度の生活費」は決められている。その「生活費-収入」が生活保護費となる。「月額1万5000円以上の収入があると保護費減額の対象となる」ともされる。
どうだろうか。ある一定期間は、「仕事をやる気」をなくしてしまうような一律の保護費削減は据え置く。そうすることで「甘い」と言われるかもしれないが「生活保護費に頼らなくてもやっていけるようになる」枠組みこそが、肝要だと思う。
ちなみに鐘ケ江氏は「うちの入居者は、アパート周辺の吸い殻やごみを拾うなど掃除を積極的にやってくれている」としているという。
世の中は広い。記した様な賃貸住宅オーナーも現にいるのである。(記事:千葉明・記事一覧を見る)