カルビーが取り組んだ「働き方」改革、そして今

2019年12月24日 19:47

 カルビーの「働き方改革」も、前CEOの松本晃氏をリーダーに進められたといわれる。カルビーは2010年1月に本社を北区・赤羽から千代田区・丸の内の「丸の内トラストタワー」に移転した。時の経営体制は、代表取締役会長兼CEOの松本氏と代表取締役社長兼COOの伊藤秀二氏(18年6月にCEOに就任)。ともに09年に、創業者一族以外から初めて経営トップの座に就いている。

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 本社移転と並行し、様々な社内改革が進められた。その一つがオフィス改革であった。分散していた本社機能を集約・統合させた。事業活動の効率化を図る狙い。東京駅前という好立地への移転で、スムーズな営業活動を進める効果が期待された。

 が、カルビーは同時にオフィス内で働く社員の「働き方」にも大きな変化を起こした。

 オフィスはフリーアドレス制を採用。ほぼ全社員がフリーアドレスで日々の業務に取り組むようになった。とはいえ単にフリーアドレス制の採用では、時が経つにつれ自然と各スタッフの使用するデスクが定まりがちになる。社員同士のコミュニケーションをスポイルするという逆効果にもなりかねない。

 そのあたりを勘案したカルビーは、こんな施策を講じた。社員が出勤時に、その日使用する座席を自ら決める「ダーツ」システムを採用。PC上で座席を決めるというもの。業務内容に応じて、オープンな座席から集中して仕事に取り組みたい社員向けの座席など、3つのタイプから社員は選択し、最長5時間まで「ダーツ」で割り当てられた座席を使用することができる。

 仕切りによって1人で集中して仕事ができる「ソロ席」。他との接触を一切絶ってさらに集中度が高い環境で仕事ができる「集中席」。4人掛けの「コミュニケーション席」の3席から選択する。例えば、午前は1人で集中して仕事するために「ソロ席」「集中席」を使用し、午後は他の社員とのコミュニケーションをとりながら仕事できる「コミュニケーション席」を使用するといった具合に、働き方に合わせて座席を自由に選ぶことができる。

 またオフィス内はミーティングスペースや役員用の座席までオープンに配置され、社員同士の連携は部署を越えて円滑に行われるように設営されている。こうした働き方改革は業務の効率化だけではなく、コスト削減という意味においても大きな効果をもたらしているという。

 例えば業務上使用頻度の高い紙が、旧本社時代に比べ7割程度削減された。日々使用者が変わるフリーアドレスの座席では、日を跨いで同じ席に書類などを置くことはできない。そのため社員は与えられたキャビネットに必要な書類のみを取捨選択して保管する。無駄を省くという社員の意識向上につながった。

 また『ダーツ』方式でオフィス内の働く環境を変化させることで、仕事の切り替えがしやすくなり、各社員のタイムマネジメントに役立っている。毎日座席が変わるということは、周りで働く社員の顔触れも変わり、営業やマーケティング、品質保証、財務、購買など、様々な部署の社員が日常的にコミュニケーションをとりながらできる環境は、新しい発見やアイディアの創出を促進する効果を生み出す。

 本社移転:オフィス改革が実施されてから10年。果たして働き方改革はカルビーの収益動向に、どう反映されているか。

 無論、企業の収益動向は一つの要因だけで決まるわけではない。だが2010年3月期から16年3月期まで7期間は、平均営業増益率「33.6%」という実績を残している。が、17年3月期から前期までの営業利益は「2.5%増、7.0%減、0.5%増」と足踏み状態。今3月期は中間期時点で「前年同期比12.9%の営業増益」となったが、通期計画「0.1%増」は据え置かれた。

 働き方改革の時代。先行し10年を費やして取り組んできたカルビーの今後の収益動向は、注目に値したい。(記事:千葉明・記事一覧を見る

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