宇宙からの放射線が人体に及ぼす影響は? 欧州宇宙機関の研究
2019年7月3日 17:52
放射線と聞けば、日本人の多くが2011年の東日本大震災時の福島第1原発事故を思い浮かべる。あの事故がきっかけになり、日本人は放射線という言葉を多く耳にする国民になった。
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とはいえ、いざ「放射線って何なの?」と問われると答えに詰まってしまう人も多い。原発事故で有害とされるのは、ヨウ素131、セシウム134、セシウム137、ストロンチウム90の4種類の放射性物質から発せられる放射線(α線、β線、γ線)である。
もし被ばくしてしまった人の体内にこれらの放射性物質が蓄積されると、有害な放射線を発し続けるため、健康に重大な被害が生じる原因となる。
話を本題である宇宙からの放射線に戻そう。宇宙からの放射線は恒星内部で起こる核融合反応に起因するもので、最も身近なものは太陽風だ。それ以外には太陽以外の恒星の超新星爆発に起因する放射線がある。
地球には磁場があり、そのおかげで大気が太陽風によって弾き飛ばされることがないため、地上は厚い大気で覆われている。その結果、宇宙からの放射線から、人類は大気層によって保護されている。
ちなみに日本では人口の99%が高度400m以下の場所に居住するため、宇宙からの放射線の被ばく量は年間0.26mシーベルトに過ぎないが、高度が1500m増すごとに被ばく量が2倍になる。
しかしながら、標高2250mに位置するメキシコシティの住民に癌が多いというデータは得られておらず、このレベルの被ばくは人体にはほとんど影響がない。
一方、人類が再び月を目指し、火星への有人飛行の夢も膨らみつつある現在、宇宙空間を航行する際に、宇宙からの放射線で受ける人体への影響については、人類はほとんどデータを持ち合わせていない。
このような事情から欧州宇宙機関(ESA)では、宇宙飛行士が宇宙からの放射線によって受ける様々な影響についての研究を行っている。ESAのホームページ情報によれば、火星に向かう宇宙飛行士が浴びる放射線量は、地上の人間の最大700倍にも達するという。
ESAでは、原子を光速に近い速度にまで加速させ、宇宙放射線を再現し、脳や心臓、中枢神経系への影響について研究を進めている。また、宇宙航行中あるいは帰還後の放射線被ばくによる癌の発生リスクや進行リスクが生じない放射線量の見極めも行っている。
50年前の人類月面到達のニュースは華々しかったが、航行期間が短かく、放射線の人体への影響も大きくなかった。だが火星旅行となれば、その50倍以上の期間を要し、放射線との戦いを避けて通ることはできない。ESAの今後の研究成果に期待しよう。(記事:cedar3・記事一覧を見る)