製造現場にIoT導入で「30%増益効果」は真実なのか? 管理力とムダの排除の錯覚
2019年4月24日 17:45
MONOistの報道によると、「オーダーメイド」金属加工会社でIoTを導入して成果を得られたという。60名ほどの職人集団とのことであろうか。この業態はかなり管理が難しく、顧客からオーダーを受けて見積もりをするのだろうが、その加工時間を掴むだけでかなりの経験が必要だ。加工時間を算出する根拠でさえ定まらないのだ。その工場で、IoTを導入したことにより「30%以上の利益増」となったという。真実なのであろうか?
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「オーダーメイド」加工現場では、多種の部品加工が進められ、工場内の工作機械の稼働率も一定しない。職人の腕の差も激しく表れる。工程を管理しようにも、順番を決めることもできず、その時の進捗状況で機械を使う順番も違ってくる。1日の中で工程順を決めるのも難しい。
工場作業では、製品の図面と共に「作業指図書(加工指示書)」が作られる。昔は組み立て図面だけで、部品展開さえも職人任せの時代もあった。品質の問題と、加工時間の集計管理、見積もりの基礎時間集計などの必要性から、「作業指図書」が添付されるようになった。部品展開も「作業指図書」が添付されるようになった。さらには其々の加工時間(工数)も指示されるようになり、実績時間も集計されるようになってきた。
しかし、「単品もの」の工数は最終的に実績に頼るほかない。新規の場合、見積もりも経験工数となるのだ。それを手書きの表に、作業者が記入していったのだが、実作業時間と合わないことも多く出てくる。作業者の仕事のペースによって、休憩時間も作業時間に加える人もあり、現実を掴むことさえままならなかった。
「作業指図書」が製品に付いて回り、機械にセンサーを取り付ければ、加工開始から終了まで記録することが出来る。それをリアルタイムで記録、集計していけば、現状の工数は掴むことが出来る。しかしだからと言って「30%増益」となるだろうか。同じ製品で「増益」と言えば加工時間が短縮されたとのことだが、実際に工数を30%削減するには、工程を変えるなど作業を短縮する工夫がないと、時間は縮まらない。
IoT導入で30%増益できたとすると、その原因が「IoT導入によるメリット」と公言するのは少々はばかれる。人間の手作業では、「頑張ろう」と「掛け声」だけで、30%以上の工数削減は出来てしまうものなのだ。そこで今回の例のように、IoT導入で増益となった場合、その原因は、「IoTにより記録が残るということによる作業者の緊張感がもたらした結果」が主なものなのだ。長くは続けられないだろう。
それでもなおかつ、IoTによる管理が進むと、バランスが良くなり、流れが良くなることも確かだ。「管理力と工数削減」は表裏一体だが、「作業カイゼン」がないと増益には結びつかないことが基本であると理解したほうが良い。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る)