1万円札が「紙切れ」になる論を看過できない理由
2019年3月25日 08:31
土居丈朗慶大教授「諭吉先生のお札が紙切れに」 緩和続けば経済大混乱もー2月14日にブルームバーグが土居教授に行ったインタビューを配信した、3月10日付けのSanKeiBizにつけられた見出しである。
土居教授は財務大臣の諮問機関である「財政制度等審議会」の委員を長らく務めている斯界のプロである。それだけに目を引き付けられた。内容を要約すると次の様な具合だ。「政府が巨額の国債を発行するなかで、日銀はやがて6割・7割を買い取ってしまうかもしれない。日銀が従属的に穴埋めしている、という財政ファイナンスの見方が払拭できなくなる可能性が否定できない。そうなると慶応の人間としてはあまり言いたくないが、福沢諭吉先生の肖像画の1万円札が紙切れになるかもしれない」。
周知の通り、昨年末の国の国債発行残高・借入金残高は1,100兆5,266億円と、過去最高に達した。債務残高の国内GDP比率は230%超と先進国中で最悪。こうした事態の背景が政権・日銀がタッグを組んで2013年以来導入している「異次元の金融緩和(次第に施策はエスカレートしゼロ金利政策導入にまで至っている)」であることは、論を待たない。
日銀は明らかになっている限りの昨年9月末時点で、発行済み国債の約43%を保有している。日銀の若田部副総裁は昨年3月の就任前の国会所信聴取で「国債はまだ6割残っている。必要なら追加緩和を提案する」と語り着任している。そして昨年10月の日銀・政策決定会合では「金融緩和の強化とともに、政府との政策連携をもう一段強化する必要があるのではないか」という声が出たと伝えられている。
日本の景況感も「低成長」の域にとどまり「後退感」すら、出始めている。危険な財政政策の論拠として「GDPの成長率が名目3%/実質2%の高成長でもプライマリーバランスの黒字化は26年。政府の25年目標などまさに画餅」とする声が聞かれる。
土居教授が「諭吉先生のお札が紙切れに」とする論拠は、「このまま財政出動と日銀の大量国債買いが繰り返されその比率が高まっていき買い入れ余地がどんどん減っていくことが明白になった時、継続できる政策でないことに誰しもが気付く。いずれ金利が抑制できなくなるかもしれないという事態になった時に最も懸念されることはなにか。金利急騰だ」。説得力を持つ。
迷路・負のらせん階段から脱出する道はないのか。「IMFによる緊縮財政指導、いや強制介入くらいしか」とする見方が出ているが、看過できる指摘ではない。(記事:千葉明・記事一覧を見る)