村田製作所の「高品質」スピリットは、依然健在(下)

2019年2月25日 09:06

 村田製作所が進む円高の中で、若手部長の「円建て輸出にシフトすべきではないか」という提案により「経営会議」を開いたのは1979年2月のことだった。海外輸出の展開に注力している、まさにそんな時期だ。

【前回は】村田製作所の「高品質」スピリットは、依然健在(上)

 午後1時に始まった会議では「否定論」が7割方を占めた。午後4時半ごろには議論が出尽くした。反対論の軸になったのは、以下の様な見解だった。

 「弱くなっているとはいえ、海外貿易は基軸通貨のドルで行うのが国際的な慣例だ。円は未だローカルカレンシーの域をでてはいない」

 「円高といっても、今は一服状態にある。むしろ行き過ぎたドル安の修正が今後の流れではないか。様子見が賢明と考える」

 そしてなんといっても「円建て貿易(輸出)」に大きな危惧を唱えたのが、「割高な円で仕入れた製品を販社が割安な現地通貨で商わなくてはならない。となると結果的に昨日(きのう)までより高い値段で売るということだから、ダンピングといった事態に巻き込まれて競争力を失う危険性が高い。海外の販売現法の経営を圧迫することになる」とする意見だった。

 そうした流れの中で4時半をまわった時点で1人の男が、意を決したように挙手し発言を求めた。当時の米国村田社長の茶之木太氏だった。こう発言した。

 「円が高くなっているいま、円建てでというのは海外の営業現場を預かる者としては確かにきついしつらい。が、商品力を信じ一層のコストダウンによる値下げを期待し、顧客に受け入れて貰えるように努力するのが営業力というものではないかと思う」

 参加者は茶之木氏の発言に固唾を呑んだ。この発言を受けるように話し始めたのが村田製作所の創業者であり、当時会長だった故村田昭氏だった。自分に言い聞かせるようにこう語り、実質上会議を締めくくった。

「内外にグループ経営を拡充していく。これは当社の絶対の方向だ。そのためにはグループ全社が共通した価値意識を持たなくてはならない。海外での価格競争力に厳しさが出てきたらグループ一丸となりコストダウンに努め、かつ高品質な製品を送り出さなくてはならない。製品力とコスト力を表裏一体に磨きをかけ続ける、これが村田だ。円建て輸出に踏み切ろう」。

 私は無論、会議の場に居合わせたわけではない。バブル期に「村田製作所はこの時期でも、社債運用しか手掛けない」と証券筋に知らされ「なぜ」を聞くために、当時の財務担当専務の泉谷裕氏を取材した。「うちの場合、いつなんどきコストダウン・品質向上投資で資金が必要になるか分からない。だから利回り云々より換金性を重視しているからだ」と聞かされた。何年何月号だったかの記憶はないが「プレジデント」なる雑誌に記した。その取材の折に、記した「経営会議」の話を聞いたのである。

 高品質スピリットはいまなお、村田製作所に脈々と受け継がれている。(記事:千葉明・記事一覧を見る

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