「地面師」の巧妙さを著者に聞いた
2019年1月20日 21:34
「地面師」(講談社刊)の著者:森功氏(昨年の、大宅壮一メモリアルノンフィクション大賞の受賞者)に会った。詳しくは力作をお読みいただくとして、改めて興味深いことを著者から直接この耳にした。
地面師なる存在が広く知られる契機となったのは、昨年起こった積水ハウス事件。東京品川区西五反田の旅館跡地(約2000平方メートル)の「地主」に成りすました地面師の一団に約55億円を詐取された事件である。総勢16人が事件に関与したという。綿密に「役割分担」がなされ、「詐欺の全容」を知ることなく加担していた人物が少なくないという事実を子細に聞いた。
役割分担とは、次の様な具合。主犯格はカミンスカス容疑者(フィリピンに逃亡、帰国後逮捕)・内田マイク容疑者・北田文明容疑者の3人。その下に「手配役3人」「仲介業者3人」「口座準備等調整役4人」「(地主に)なりすまし役3人」といった具合。そして逮捕後にただ一人早々に関与を認めたのが、なりすます役を果たした羽毛田正美容疑者。「娘が病気で、とにかく金が必要だった」と供述しているというが、一団の末端で詐取事件の全容は知らなかったようだという。
いかに「末端役」には全容が知らされていないのかについて、森氏からこんな話も聞いた。派手な?女性経営者の露出で知られる「アパホテル」も地面師一団から12億円超の損失を受けているが、「なりすまし役」が手にした礼金は10万円程度だったという。
そしてこんな興味深い話も聞いた。「問題になっている空き家なども地面師の詐欺の対象になるだろうか」という問いかけに森氏は「私見」という断りの上で、こう答えてくれた。
「地方の空き家に関しては費用対効果から彼らは手を出さないだろう。が、都市部でご主人が亡くなっていて残された奥さんが例えば認知症気味で治産能力に欠け、かつ親戚縁者と疎遠なケースでは大いにありうる」。
そうした狙いどころを地面師たちはどうして探し出すのか。「地面師で詐取の企画を立てる親玉クラスは自分の取材で30人前後いる。彼らは情報交換をしている。例えばその場所は傍目には変哲のない喫茶店などだ。自分もその場所と思しき場所を聞き込み、巣鴨と新橋の喫茶店を取材した。らしき一群の近場の席で聞き耳を立てたが、とんでもない話をしていた。その中には積水事件の主犯格の北田もいた」という。
防御のしようはないのかと聞いた。「資産家は最低でも年に1回は登記簿に変化はないか、を確認すべきだろう」としたうえで、こう苦言を呈した。「不動産取引で最後の番人ともいえる司法書士は、地面師の手口をもっと勉強すべきだと思う」。
不動産資産家の各位、あなたの土地も地面師に狙われているかもしれない!?(記事:千葉明・記事一覧を見る)