AIでゴルフクラブ設計(上) 石川遼の契約キャロウエイ、AI抜きには考えられない時代

2019年1月14日 09:13

 いよいよ、ゴルフクラブもAIで設計する時代が到来したようだ。アメリカの2大ゴルフクラブメーカー、キャロウエイとテーラーメイドの競争は熾烈を極めている。毎年、両社は新製品を出して性能を競っているが、中でも、ドライバーの競合は激しい。

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■ゴルフクラブの規制(ルール)の存在

 ゴルフクラブには、大きく分けて「ウッド」と呼ばれるクラブと「アイアン」と呼ばれるクラブ、そして「パター」、さらには最近では「ウェッジ」と「ユーティリティー」が区別されて技術的進歩が競われている。バッグに入れてプレーするクラブの本数は14本に限られており、これは厳格に競技では監視されていると言える。時折、トーナメントプロが子供と遊んだクラブを抜き忘れて試合に出ていたなど、ほほえましい間違いでペナルティーを科せられているが、プレー開始前に気付いて「使用しない」と宣言しておけば、バッグに入っていても構わないところなど、「性善説」に基づくゴルフというスポーツの基本的精神が理解できる。

 「ウッド」と呼ばれるゴルフクラブの代表格は「ドライバー」だが、市場で毎年新モデルが発表され、ゴルファーの買い替える率が高いクラブだ。「もっと遠くへ」と誰もが望むクラブで、「飛ぶクラブ」がヒット商品となるのが必定だ。メーカーとしては稼ぎどころで、アイアンなどは5年に一度ぐらいの買い替えサイクルなのだが、ドライバーは2年に一度ぐらいのサイクルだ。ドライバーの素材は、本当の「柿の木(パーシンモン)」で出来ていたのだが、30年ほど前からは「鉄(メタルウッド)」、「チタン合金」などが使われるようになり、飛距離が大幅に伸びるようになってきた。

 そのおかげでトーナメントコースでは、コースの長さを延ばす改造工事が必要になってきており、あまり延ばすことが出来ない場合には、バンカーや立ち木などでコースの難しさを増す改造が進められている。また、10年ほど前(2008年1月)からドライバーの反発係数のルールが設けられ、道具による飛距離増大を規制するようになった。それはチタンの使用などで飛距離が伸びただけでなく、ヘッドが大きくなりすぎて易しくなるなど、競技としての面白みがなくなることを避けているのだ。競技は、ある制約の中で競われるので面白いのだ。

■AIによる設計の価値

 ここが、AIによる設計の価値が出るところで、ドライバーのフェースの反発係数は0.830以下がルールだ。この規制値を守りながら、いかにして「飛ばすか?」が争われている。キャロウエイゴルフは色々なアイディアを出してきたが、計算値を見ながら設計しても、人間の作業能率では限界が出ていた。今回、キャロウエイが新発売したドライバー「エピックフラッシュ」では、AIは1万5千通りのモデルを設計したと言われる。人間の作業時間に置き換えると34年間に相当するようだ。

 それは、ボールをヒットするフェースだけでなく、ヘッド全体を考慮して最適のフェースを探すため、試行錯誤の作業となり、AIに最適な仕事であると言える。AIが設計した波打つフェース裏側の厚みの取り方は、「経験値」の様相をよく表している。これは計算値と言うよりは、自動車のモデルベース設計のように、コンピュータの中でシミュレーションを繰り返して最適値を求めたようだ。仕事量からするとAIにしかできない作業で、これからのゴルフクラブの設計の標準となる可能性が感じられる。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る

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