ボーイングとエアバスは何を争っているのか(3) スピードとは【乗り換えなしの直行便】だ
2019年1月9日 11:26
■B747ジャンボの登場の裏話
その当時、ボーイング・B747が登場し、その後ダグラスは消え去った。その理由は、幹線航路での採算重視で、「たくさんの旅客を一度に乗せること」で旅客運賃を下げる競争に変わっていったからだ。その後、しばらくはジャンボの一人勝ちとなり、その概念の究極の機体がエアバス・A380であった。一方、ジャンボの登場には軍用機での受注合戦が影響していた。
【前回は】ボーイングとエアバスは何を争っているのか(2) スピード争いの終焉
それは、ロキード・C-5との競合であった。アメリカ空軍は、当時、海外駐留軍の縮小を図り、予算の削減に努めていた。そのため、世界の基地には装備を備蓄し、少数の管理部隊のみとして、有事には本国より一気に大部隊を展開させる計画を組んだ。それには船での輸送では時間がかかりすぎるため、ジャンボ輸送機の計画を進めたのだ。「ビッグリフト作戦」と言われた方針で生まれたのがロッキード・C-5だった。
ボーイングはロッキードに敗れ、ロッキードがC-5輸送機型から旅客型に設計変更した機体を作ることを恐れた。そこで、短期間にB747を設計し販売を開始すると、航空旅客の増加とマッチして、世界の幹線空路を独占していった。その時の開発プロジェクト管理概念が、航空機の開発設計のスタンダートとなって行った。その「大型化の延長線上の概念」により、さらに定員を増やし、運賃を下げようとエアバス・A380が開発されたのだ。
■ボーイングとエアバスは何を争っているのか?
しかし、今度は逆に、ボーイングは【ハブ空港を経由して短距離に乗り換える(エアバス・A380:最大定員約850)】考え方よりも、できる限り【ハブ空港を使わず直行便(ボーイング・B787:最大定員約400)】を旅客は望むと考えた。そのためには、少ない旅客数でも採算がとれる、燃費・整備性に優れた中型機の需要が増えると予測していた。ボーイング・B787の登場だった。現在、その考えはほぼ証明されたようで、A380は思ったほど受注が伸びないが、B787は発展型で増産体制にある。さらに、超単距離向けの小型機ボーイング・B737はベストセラーとして未だに生産が続いている。
ハブ空港の争いは、日本の経済発展にも影を落としかけていた。当時、韓国の仁川国際空港(インチョン)との競争に敗れようとしていたのだが、現在は努力が実って羽田空港は旅客が増え、ハブ空港の仁川国際空港は旅客が減ってきたようだ。この動きには、ボーイング・B787の就航が大きな役割を果たしているのだろう。空港側の努力の陰であまり話題にならないが、実際にはB787の生産機数を見ると、「世界の旅客の希望」を読み取ったボーイングの勝利と言ってよいだろう。
しかし、A380の開発が発表されたときは、「また旅客機覇権メーカーが変わる時が来たのか」と感じたものだった。今、B787は増産しており、中国での生産も準備されている。B787は7割程度が日本の企業で作られている。「日本の準国産機」とボーイングが言うほど日本の技術が使われている。ボーイング社に出向していった私と同期の設計士たちはもう引退しているだろうが、B757、B767はもちろんB777、B787にどれだけ絡んでいたのであろうか。
『ボーイングとエアバスは何を争っているのか?』の答えは、「直行便の必要性を争った」と言えるかもしれない。「高速化」を旅客の立場で考えれば、【乗り換えなしの直行便】であったのだった。さて、次の旅客のニーズをどのようにして探ったらよいのだろうか?アンケート調査では見つけるのは難しいのかもしれない。顕在化している市場しかとらえられないMR(マーケットリサーチ)技術についても考えさせられる事例だった。やはりこれからは、潜在市場の探索には「AIのディープラーニング」が適しているのだろう。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る)