ホンダジェット販売台数トップ(上) その魅力を紐解くと「ホンダの気合」と「繊細な日本人」が見える

2019年1月2日 07:53

 1986年、ホンダは、航空機開発に乗り出した。このことは、ホンダの創業者、本田宗一郎には1991年に亡くなるまで知らされていなかったと言う。航空機部門への進出は宗一郎の夢であり、告げてあげてほしかったと思うのだが、「知らせると引退したのに戻ってきてうるさいから」と考えたようだ。ホンダの社員は、宗一郎を「おやじ」と呼んで慕っていた。

【こちらも】ホンダジェット、日本国内で初納入 既に10機以上を受注

 マクラーレン・ホンダとしてセナを配してF1グランプリを席巻していたころ、ホンダのシャーシ部門の設計者たちが、勝手にF1マシンを作ってしまったそうだ。会社の資材や機械を使い、退社後勝手に集まって作業していたが、それを叱るどころか、「俺たちにもやらせろ」とアピールすることが、ホンダでは普通に受け入れられていたそうだ。

 ホンダジェットも、そんなホンダイズムを受け継ぐ社員が「おやじに見せてやる」くらいの意気込みで進めていたのであろう。宗一郎を慕うホンダ社員が、まだ残っているようだ。リーダーは、2006年設立されたホンダ エアクラフト カンパニー(Honda Aircraft Corporation)のCEO藤野道格氏だが、宗一郎の墓前にどのように報告したのであろうか。

■エンジンの取り付け位置は「グッドアイディア」

 ホンダジェットは特徴が多い機体だが、エンジンを翼にぶら下げるのではなく上に取り付けたことが、外観の目立つところだ。それに対して、競合機である「セスナ・サイテーションM2」、「エンブラエル フェノム100」の両機をみると、定石通りリアジェットの形式をとっている。しかしこれは、荷室のあたりにエンジンポッドを取り付ける柱が貫通して、キャビン(客室)を狭くする。乗員10名以下の分野ではかなり厳しい状態となるのが分かる。それで、ホンダジェットはキャビンの広さを確保し、騒音を避けてかなりの商品力を確保した模様だ。しかし、苦戦の跡がしのばれる形状だ。

 ホンダジェットの翼を見れば、かなり薄く「クラークY型」の断面でなく、「層流翼」であることが分かる。この断面形状は、揚力は落ちるが抵抗も少なく、高速巡行に向いている。機首部分は鳥のカモからヒントを得ているようで、同じく境界層の気流の剥離を防止しているようだ。空気抵抗は、機体表面と空気の接している境界層が剥離すると、大きな抵抗となってしまう。燃費の向上のためにも空気抵抗を減らさねばならない。これは自動車でも同じだが、飛行機は速度が大きいので、より顕著に燃費性能に関係してくる。

 つまり飛行機は、自動車に比べて、性能が直接商品力となる可能性が高いのだ。ホンダの車N-VANのように、空気抵抗が大きい形状で実用性を上げることなどを行うことが難しいのだ。その中でできる限りの工夫をしていることが、競合各機には見ることが出来る。

 ホンダジェットはキャビンが広く取れたことを活かし、このクラスでは珍しい立派なトイレを設けたり、荷物室を大きく確保している。操縦系統は、これはなぜか興味がわくが、「フライ・バイ・ワイヤー」と取っていないと言う。現在では車のアクセルさえ「ドライブ・バイ・ワイヤー」としている時代に不思議なことをするものだ。操縦室はパイロット1名で操縦できるようになっており、完全な液晶表示になっている最新設備だ。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る

関連記事

最新記事