【コストカッター、カルロス・ゴーン(3)】ゴーンの取った方策はタイムリーだった
2018年11月25日 10:44
■グローバル発注と下請け
カルロス・ゴーンが登場したとき、私が第一に注目したのは、「トヨタピラミッドの下請け体制」と、「日産の世界標準と言われるグローバル発注」との優劣だった。日産の「安いところから仕入れる」という分かりやすいグローバル発注の理論だが、事はそれほど単純ではない。
【前回は】【コストカッター、カルロス・ゴーン(2)】 日産がトヨタに敗れた原因は、生産技術の遅れ
安く仕入れられても、「ロット発注」では検証が必要だ。「トヨタかんばん方式」では、工程間で在庫を持つことはタブーだからだ。それはもちろん、在庫品すなわち資金が寝るからだ。海外からの輸入(グローバル発注)だと、どうしても船便でコンテナ輸送となる。そのため部品を組み立てラインに投入するまでに時間がかかり、倉庫、運搬など管理手間も大きく、何より保管場所が必要になり、土地代金、倉庫建物など大きな費用を必要とする。その資金需要が経営を圧迫することは、日産は倒産に至った経緯から承知しているはずだ。
■ゴーン流コストカット方式
そこで、カルロス・ゴーンがとった方式は、日産配下の下請け企業を半分に減らすことだった。それは同時に、部品調達をグローバル発注として、「安いところから買う」ということだった。馴れ合いから「かんばん方式」について行けてなかった下請けを切り、安い部品を仕入れることで、コストは目に見えて確実に下がる。設備や管理方式が古く、生産コストが高い工場は、メインの村山工場といえども閉鎖した。生産方式をカルロス・ゴーンが理解できているかは分からないが、生産性が高い工場に集約していったことで、無駄を省くことが出来た。
もちろん「資産の売却でV字回復を演出する」こともできた。しかし、コストカットの有効性は、日産自動車が、もともと多種少量生産に遅れていたことで、部品の「単品価格の削減」で発揮された。これがトヨタのように、部品単品での価格だけでなく、ジャストインタイムで在庫関連のコストも削っている状況であると、「安いところから買う」だけでは十分な効果は得られなかったかもしれない。ロット購買の周辺コスト、すなわち倉庫の建物・土地・管理手間など総合的に考えないと、結果は判明しなかった。
また、工場閉鎖してしまうことでリストラが比較的スムーズに進む、副作用も出ていたことだろう。それは、同じ工場で人数を減らすことはしがらみが大きいが、閉鎖となれば配置転換を受け入れられる社員も減り、自然と退職が進むと考えられるからだ。
■グローバル発注の欠点と限界
下請けの良いところは「ジャストインタイム」が徹底できることだ。中間在庫はぎりぎりまで削減され、リードタイムが短縮されて、多少、経理と生産技術の知識がないと分かりにくいのだが、総合的に「資金量は劇的に減る」こととなる。「劇的に減る」ことを理解してほしい。一方、グローバル発注でビックサプライヤーから購入するとなると、思うように小ロット納品をしてくれるわけでもなく、どうしても工程間在庫が増え、リードタイムが伸びてしまう。そのマイナスを補って余りある部品に絞って購入しないと、かえってコスト上昇を招いてしまう。
しかし、カルロス・ゴーンが赴任した当時の日産の状況では、ジャストインタイムも徹底して行われていない状況で、グローバル発注での部品在庫による経費増大は、問題になるほど目立たなかったはずだ。それよりも、「購買費用減少」が目立ったはずだ。だからこそ、西川社長が出世し、現在が成り立っているのだろう。このコストカットが業績回復の原動力となって、「ゴーンの業績」とも言えた。問題は、ここから先の方式にあることとなる。それは3社連合では十分な手立てが出来ない可能性が高い。その意味では経営統合を急ぐ必要がある。しかし、フランス主導では、生産拠点をフランスに持ち去られ、日本の雇用を減らすことにもなりかねないだけに、日本国としては「到底受け入れがたい」となるのだ。
■V字回復できた理由と限界
つまり、日産リバイバル計画はカルロス・ゴーンの特徴である「コストカット」が機能する周辺の条件で、業績を回復できる状況だったのだ。しかし、さらにコストダウンするには、「コストカット」だけでなく、「平準化」など新しい要素を取り入れなければ効果が出ないこととなってくる。つまり「グローバル発注」では、ジャストインタイムは難しく、コストダウンに限度が出来る。ここが、サプライヤーチェーンが、下請けとどちらが有益であるのかの境目だ。ゴーン流改革の技術的有効性が発揮できる限界が見えている。
次は、拡販に場面が変わったときの状態を考えよう。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る)