自動車メーカーのプラットフォーム開発競争(2)目的は決算書 利益率と生産技術の関係

2018年5月30日 07:48

■誤解されている生産技術
 最近の技術開発では「モデルベース開発」が注目されているが、誤解がはなはだしい分野でもある。コンピュータ内で設計が合理的と思われても、実際に「品質保証」しながら、安く・タイムリーに生産ができるとは限らない。それは現在のモデルベース技術レベルでは、製造方法まで完全に考慮した設計がコンピュータ上で出来ないからだ。現状、はるかに遠いと考えておく必要があるのだが、世間ではコンピュータ内シミュレーションで十分としたがる傾向にある。それは「製造の現実」を、専門家が知らないために起きているからであろう。

【前回は】自動車メーカーのプラットフォーム開発競争(1)目的は決算書 利益率と生産技術の関係

 そこには、プログラム開発と量産製造と比べて、量産では大きく工程が増えていることが理解できない不思議な現象がある。天才と言われるテスラのイーロン・マスク氏でも、これが欠落していることが表面化している。プログラム開発では、デバッグ(検証)が行われてサンプルプログラムが完成すると、「コピーするだけ」で全く同じ製品が生産できる。しかし、自動車製造では、サンプルが出来て「型式指定」が取れても、そこからが大仕事だ。さらに、製造で「持続して品質を保つ」のには、設備のセッティングはもちろん膨大な仕事量と技術が必要だ。その必要な技術力の中には、「ファンダメンタル・コントロール」が大きな比重を占めている。つまり、人事制度、管理職の技量、給与体系・査定制度、トイレ・食堂設備など、あらゆる企業環境が総合的に影響してくるのだ。

 これが、生産技術のバックグラウンドとなって大きな影響がもたらされる。企業経営とは「人のライフサイクル」を決めるものなので、「人間性」を豊かにしないと「品質」も上がらず、「コスト」も下がらない。生産に関わる人々が「納得して、前向きに取り組む」環境作りが必須なのだ。グーグルも製造を伴わない分野だが、社員の働く環境に多大な配慮をしている。それが社員の能力を発揮してもらう条件を整えることになるからだ。

 スバル、ニッサンが新車検査を無資格者に行わせていた事実などで知っておかねばならないのは、「車検制度」と「品質保証」の整合性だ。誰もが納得のいく制度になっておらず、監督官庁である国土交通省でさえ、管理に怠慢であったのはこのためだ。つまり、車検制度が実際の品質保証に大きく貢献している制度であると認識されていないからだ。確かに製造工程内では、「検査の必要性がない」ことが良いことなのだ。しかし、国土交通省の表向きの指導にあるように、国民に対して品質を国が保証する唯一の制度であるのだ。

 現在、スバルが国土交通省の立ち入り検査を受けているが、奥の深い本来の「品質保証」を国土交通省自身が理解しているとは思われない。形式上の再発防止で終わるのであろう。しかし、これらは現実的な品質保証の問題であり、スバル車の品質を決めることになる。検査方式も、品質保証の技術レベルを決める要素なのだ。

 続いてはプラットフォームに求められる本来の機能についてみてみることにする。これは自動車の性能全てに関係する技術になる。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る

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