EV時代の素材は?マルチ・マテリアル・ボディ(下) 材質革新は作り方とセット
2018年5月2日 09:15
■製造(加工)・生産技術の同時進行
車のボディでは、生材でもプレスで型を付けることにより強度を増して軽量化してきた。しかし、同じ重量ならハイテンが強度的には良い。それで、同じ強度を得るには軽くて済む特性なので軽量化が進む。一方で、ハイテンの加工のしにくさを克服する努力が続けられている。つまり、出来るだけ強い材料を使いたいのだが、固い材料ほどスプリングバックが多くなり、ついには割れてしまってプレス加工が出来ないことになるのを克服しようとしているのだ。
【前回は】EV時代の素材は?マルチ・マテリアル・ボディ(上) 「100kg軽量化で1km/L燃費向上」
スプリングバックとは、いったんプレスで曲げても、押すのをやめると戻ってくる現象をいう。引っ張り強さが強いほど、スプリングバックは大きくなる。その分を計算して素材を割らないように曲げるには、プレスを段階に分けて、回数を増やしたりするので、コストとの関係が出てくる。作り方、流し方との関係を工夫することが必要だ。
冷間プレスで加工できる範囲は限られており、さらなる強度のあるハイテンを使おうとすると、熱間プレスで加工するほかはなくなってしまう。これは大きなコスト上昇を招くので、冷間プレスで加工できる限界を高めようとしている。
■最新の素材
そのほかクルマの素材では、合成樹脂、カーボン素材などが注目されていて開発中だ。BMW i3がカーボン素材をメインにし、シャーシをアルミ素材でボディを作り上げたが、これで業界全体に衝撃が走った。これは、航空機のボーイング787でも見られる、ボディの一部をカーボン素材で成型し、大きな窯で丸ごと焼き固めることが出来る技術である。しかし、極端に高価であるため、量産車の自動車には採用が難しい現状だ。
また、アルミ以外の金属ではマグネシウム金属が使われている。古くはトヨタ・2000GTのタイヤホイール、最近では日産・GT-Rのエンジン・オイルパンなどに使われてきている。しかし、これも高価であることなどから、アルミニウムのようには広く使われることはなかった。
こんな情勢から、当分の間マルチ・マテリアル・ボディが続くと思われる。適材適所で材質を選んで軽量化を図る工夫が続いている。現在のところ、日本はハイテン、アメリカはアルミ、ヨーロッパはカーボンが得意であるようだ。しかし、競争は激しく、変動している。カーボンでは日本メーカーも高い技術力を持っているし、ホンダの初代NSXはアルミボディであった。最近は、ボルボXC40ではアルミを多用してきた。SS材の限界が見えている情勢では、急速に新しい素材が用いられるようになっていくのは確実だ。
■多種少量生産を進める軽量化
自動車産業の場合、素材の革新は「作り方とセット」で開発されることが条件だ。トヨタのTNGAなどシャーシの共有化を進める方向性のように、車種ごとのプラットフォームを共通化する必要性の中、寸法・重量・強度などを車種ごとに調整するために、板厚を変えたり、伸び縮みする構造の部品を使ったり、現在進行中の考え方だ。一部に共通部品化を批判する見解も根強いのだが、共通化は企業の資金繰り、決算対策などで、必須の手法であり、後戻りは許されない。
マルチ・マテリアル・ボディでも、出来るだけ多くの車種のプラットフォーム・ボディをはじめ、モジュール単位で共通部品化できるように、設計することが肝要だ。これによりラインの稼働率を上げ、余分な設備投資を抑え、売れている車種をタイムリーに生産して「ジャストインタイム」を実現できる。これで「固定費を下げて」市場の変動に強い企業体質を造ることが出来る。「企業価値」を上げるには最も正当な手法で、「労働環境も含めて企業倫理にもかなう」。製造業は、何事も「作り方とセット」で成り立つのだ。
これがイーロン・マスク氏に伝えたい企業経営の基本だ。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る)