自動車生産台数世界一の中国が、なぜオリジナルのエンジンを造れないのか?

2018年3月19日 19:44

 2000年に約200万台だった中国の自動車生産台数(年間)は、2008年に米国を追い抜き、今や3000万台(2016年)に迫ろうという勢いだ。現在、2位の米国でさえ約1200万台に留まっており、他の主要国5カ国(ドイツ、日本、韓国、インド、メキシコ)も停滞しており、その差は離れていくばかりに思える。

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■「基礎工業の遅れ」を自認

 しかしその中にあって、先日中国のメディアが、世界最大の自動車大国であるのに「なぜ他国のメーカーより優れた自動車用のガソリン・エンジンを作ることができないのか」という記事を掲載したという。たしかに、次々と空母を建造するほどの国となったのになぜであろうか?記事によると、技術力についてはまだ世界の大手メーカーと大きな差があり、オリジナルの優れたエンジンを開発できない要因は「基礎工業の遅れ」もあると自認しているようである。

■中国の追随を許さないのは日本の国民性?

 自動車産業や精密機械産業は「知識集約型産業」とみなすことができる。簡単に言うと、人間による知的生産による業務の割合が大きい産業のことだ。具体的には、工作機械、半導体、光学部品、自動車エンジン、ロボットなどで、未だに中国の追随を許さない。いずれも現代の自動車製造に欠かせない技術が集約されたもので、エンジン車の製造はこれらすべてを使っている。特に、工作機械市場は米国、ドイツ、日本の独占場であり、また光学部品においては世界のメーカーが日本製に依存しているのだ。さらに産業ロボットについては、世界シェアトップ10のうち5社は日本メーカーである。

 これらは今まで培ってきた「技術」の集大成でもあり、中国が10年やそこらで追いつける代物ではないことは確かである。技術とは社会のすべてに宿るもので、簡単に模倣できないのだ。文明のレベルと言ってよいものだ。しかもその時代ごとの要求にあった基準があり、「運」も左右するものだ。

 また、国民性の問題もある。日本人の真面目さと緻密さ、手先の器用さは、他国がマネをしても決して追いつけないものがあり、例えばトヨタ生産方式を導入した米国では、まったく同じことをやってみても、どうしても数%~数十%はスピードが上がり切らないという話もある。この国民性が、石油ショック以来の省エネが叫ばれる世界においては、日本人にとって幸運と言えるものだ。

 現在、日本では熱効率アップを目指したエンジンの開発中であるが、中国が追いつけないというエンジン製造についての、まさに日本人らしい加工精度がもっとも要求される技術が必要である。中国がそれに追いつこうとすると、これから人材教育を徹底的に施して一体どれほどの時間を必要とするのか皆目見当もつかないだろう。そのためその国民性の得意分野で勝負していくのが良いのだ。

 中国にとっては、欧米・日本のメーカーと違い、エンジン車からEVに替わることはさほどの衝撃ではない。それどころか「大チャンス」となっている。逆に、これまでのメーカーは、エンジン、ミッションなど主要な部品を生産していた人材の仕事がなくなってしまうことに対処しなければならない。これが一番の社会の足かせになる。

 しかし、エンジン車で世界一の技術力を持てたのなら、EVでも必ず世界一になることが可能だ。問題は時間だ。どこがいち早く変化できるかだ。中国は躊躇なくEV社会を作るだろう。失敗するとすれば、EV車が「Well to Wheel」(油田からタイヤまで)社会全体でトータルとすると、熱効率でエンジン車に負ける事態が目に見えてくるのかだ。

 しかし、たとえガソリン・エンジンが省エネと判明しても、中国は産業政策としてEVを貫くであろう。それは、日本メーカーほどの品質を「中国市場」が求めていないからだ。かつての家電、携帯電話などの製品でも、中国市場ではそれほどの品質を要求されず、世界市場の基準では「ガラパゴス現象」となってしまうからだ。しかし自動車では「省エネ」が絶対の「基準」としてあるので、中国市場でも長期間ではこの基準で見るようになる。必ずしも「EVありき」とはならない。そこで熱効率の高いガソリン・エンジンが武器になるのだが、中国社会では、低効率の火力発電により結果としてCo2排出量が多くても、国策として進められてしまう。

 ここに「自動車産業はWell to Wheel(油田からタイヤまで)を考える必要はない」との意見も生まれる。つまり「EV化だけを考えればよいのだ」となる。地球温暖化に対する対処は「国政の問題と考える」生き方だ。

 自動車産業での「自動運転」「IoT」の動きは、日本メーカーのチャンスでもある。事故率の低い自動運転システムを作ることが出来るのは、日本ではないのか。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る

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