【豊田章男の戦い】製造が分らないメディア達(上) 生産方式の進歩の必要性
2018年1月13日 07:50
最近、なぜかトヨタへの風当たりが強くなっている。「カイゼンが改革を阻んでいる」「現場現物主義が開発を遅らせている」「EV、AIにトヨタは不熱心だ」等々、かなり辛辣な批判が続く。それに対して、トヨタはジャーナリスト向けに説明会、論文発表などを行って理解を求めてきた。しかし、ジャーナリストたちの批判は止まらない。
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明らかに売名行為と感じる記事はともかく、今回取り上げる「ITmediaビジネス」が取り上げた「週刊モータージャーナル」の記事は、良く取材しており、また情報整理がなされているが、「製造業経営」をジャーナリストが知らないことを露呈している。悪い意味には取れないが、残念な記事であり、もう少々豊田章男社長にインタビューなどしていれば、ことの本質を見抜けるのかもしれない。
■企業家の危機感は常にある
まず豊田章男社長の危機感だが、企業経営者にとっては日常的に危機感があって普通なのだ。それも命懸けだ。自動車産業にとって内燃機関から電動に切り替わるとすれば、「何が最も困ることなのか?」だ。もちろん開発技術的に課題もあるが、それは「異業種からの参入が簡単」と言われる中で、トヨタにとって「問題ではあるまい」。もっとも1000万台の生産規模としての問題点は数知れずあるはずだが、「生産方式」でテスラのように行き詰るはずはない。
では何が最大の問題点であるのかだ。それは急速なEV化は「失業者を生む」ことであろう。しかし、2050年ごろまではガソリン車も必要でありHVは生き残るであろう。「代替産業はこれまでの歴史で見れば自然に発生する」としている自動車ジャーナリストもいる。しかし、これは楽観的過ぎる、子供だましの見解だ。国家規模で業種転換を計画し準備する必要がある。EUの自動車メーカも急速な対応を行っている訳ではない。現状はPHEV移行が本命だ。
■生産方式の進歩の必要性を見誤っている
このほどの人事異動は確かに大規模で異例なことだ。その背景を見ると、第一にトヨタ自身が成長したことにある。1000万台を生産してみれば、世界中に市場は広がり、地域ごとに必要な車種がある。その仕様は千差万別であろう。それに対応できなければ首位の座を奪うことはできない。
対応してみれば「リーマンショック」で販売台数が落ち込み、赤字体質であることが露呈した。「トヨタ生産方式」は減産に強い筈だった。しかし、拡販に追われる中、多くの機種ごとの共通性は失われていた。そのため機種ごとの専用ラインとなっており、減産で多くの機種のラインの稼働率が下がっていた。ラインごとの共通性がないため転用は出来ず、統合は難しい状況であった。そのため減産すると赤字になってしまう。固定費が下がらない体質であった。
そこで、カンパニー制を導入し、各地域ごとの要求の違いに対応すると共に「TNGA」を打ち出し、あらゆる方面で「平準化」を進めようとしている。つまり「機種ごとの専用ライン」では生産が落ちたときに、そのままラインの稼働率が落ちてしまう。なので混流のきく車両設計、つまり「共通化プラットフォーム」を念頭にして、機種構成を考え直している。別の機種を同じラインで組み立て可能にして、減産になったときは混流して、ラインの数を減らしてしまうことで、稼働率を維持するのだ。これで固定費を生産量に従って削減できるようにしている。リーマンショックの時より減産時でも利益を出せる体質となってきているのだ。横に流していたラインを、短いラインを縦に何本も用意したと言っても良い。「屋台」の考え方だ。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る)