ネット通販拡大とその影響 宅配ボックスに見るマンション業界の対応
2017年5月8日 18:43
ネット通販の拡大が著しい。2010年には7兆7,800億円規模だったものが、経済産業省のデータを基にした東洋経済の試算では、2020年には20兆円を超える市場規模に達するという。小売業市場の20%水準を占めることになる。
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こうした時代の遷移が、メディアを賑わしている『ヤマト運輸問題』に象徴される「宅配業界残酷物語」の根底をなしていることはあらためるまでもない。東京五輪・パラリンピックの開催年に「ネット通販/宅配業界」の関係・枠組みがどんな状況になっているのか興味深い。現段階で予想絵図を描き切ることはできない。
ただ今回の一連の流れの中で、二つの事実が明らかになってきた。
一つは「宅配ロッカーを制する者がマンション業界の覇者にもなりうる」という点。業者自身が最も痛感している。そのことを示す動きは例えば、ライオンズマンションで知られる大京の計画にも顕著。同社では18年3月に竣工される物件から、以下の様な体制を整備したものにすることを明らかにしている。
*マンションの全戸分以上の宅配ボックスを備え付ける。
*宅配ロッカーと郵便ポストを一体化させた各戸専用の宅配ボックスを開発し設営する。
*ゴルフバッグやスキー用具など大きな宅配物を入れるボックスを併設する。
*異なる宅配業者が運び込む荷物や複数の荷物を一つのボックスで受け取れるようにする。
*既存の物件に関しても工事が可能なタイミングを見計らい順次、同様の施策を整備していく。
既に本邦初という試みを採り入れたマンションの販売を控えている業者もいる。三井不動産レジデンシャルは6月に総戸数1,076戸の大型物件(中央区晴海)の販売開始を予定している。謳い文句は「総戸数の1.5倍の宅配ロッカーの設置」であり「見える化」。後者は業界初の試みだという。宅配便の運転手が配達途中で、向かおうとしているマンションの宅配ロッカーの利用状況を専用サイトで確認できる仕様になっている。確認した状況に応じ「いまならOK」か「配達を後にずらすか」が判断でき、効率的という仕儀。
業界各社の「宅配便対応の進化(改善)策」を記し始めたらきりがない。それぐらい各社とも「勝ち組」残留に血眼になっている。
もう一つは、そうした業者にとり進化を進める上での「パートナー」の存在である。フルタイムシステム。1983年に世界で初めてマンション用宅配ロッカーを開発。85年に「宅配ボックス」として「実用新案出願」している。文字通り斯界のパイオニアであり現状での市場シェアは約6割に及ぶ。同社製の宅配ロッカーが導入されているマンションは全国に2万4,000棟を超えている。
何故同社は宅配ロッカーを開発し、この世界に足を踏み入れたのか。契機は同社の創業者社長の原幸一郎氏がマンション管理業を行っていた時代の苦い体験だった。宅配便業者から住人のゴルフバッグが運び込まれた。たまたま管理人室の空きスペースは他の搬送された荷物で一杯。仕方なく管理室の脇に置いた。管理人は24時間常駐しているわけではない。当日は手渡すことができず夜を跨ぐことになってしまった。翌朝、件のゴルフバッグは盗まれ姿を消していた。宅配ロッカー開発と同社設立の引き金となった。
パイオニアの「初」の商品・施策はマンション業界に明るいアナリストの言葉を借りれば、「冷蔵ロッカー然り、着荷メール配信の枠組み然り。数え上げていったら両手両足の指では到底足りない」。アナリストはこうも言った。「マンションの宅配ロッカーの在り様を知り尽くしている。進化を目指し勝ち残りを図ろうとするマンション業者にとり良きパートナー、知恵袋と言って過言ではない」。
宅配業者、マンションの宅配施設は今後どう変わっていくのか。(記事:千葉明・記事一覧を見る)