【コラム 山口亮】第三局の政治家に捧げる「みんなの党が壊れた理由」(上)

2014年7月10日 11:28

【7月10日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

●「失敗の研究」の重要性


 日本人は「失敗の研究」としているが、現在の政党政治----特に「みんなの党」に当てはめて、考えてみたい。

 内閣府特命担当大臣として公務員制度改革を担当していた渡辺喜美氏が、自民党を離党し結党した時点では、泡沫政党として扱われていた「みんなの党」が、まずは、いかに野党として公明党を超える議席数を参議院選挙で獲得する政党になり、その後、分裂していったかを、経済政策や政党ガバナンスの観点から、簡単に、振り返ってみる。

実際、政権交代後の民主党が、政権運営で躓いたのをしり目に、2010年の参議院選挙でみんなの党は、野党第2党に躍り出ることができたが、間もなくして、橋下徹大阪市長らによる「維新の会」の結成に伴って2名の議員が離党。また、結党メンバーで幹事長だった江田憲司氏(現結いの党党首)は長きにわたる渡辺氏との確執の末、幹事長を解任。結局、江田氏について半分程度の議員が離党・分裂してしまって現在に至る。

 第二次安倍政権の高い支持率は、民主党政権との比較で経済政策が相対的にはまともである印象が一般にはある。株価が、少なくとも政権交代後に上昇していることなどが背景にあるのが理由だろう。安倍政権は、「成長戦略」という言葉を多用するが、実際のところ、まっとうな経済政策が打ち出されているという意味では、合格点だとは言い難い。しかし、民主党が、小沢一郎氏が党首になって、ばらまき型の政策を打ち出すことによって、支持を獲得していったことの対比でみても、みんなの党が2010年時点で、「所得再分配ではなく生産要素の効率的な再配分が重要だ」と述べていたのは、(日本政治の当時の情勢を鑑みると)正しくかつ画期的な意見表明だった。

 なぜうまくいかなくなったのか。

 1、政党ガバナンス 2、経済政策の2点に集約して考えてみる。

 みんなの党が、「所得再分配ではなく生産要素の効率的な再配分が重要だ」と、述べたことで、鬱屈した不満を持つ無党派層の受け皿となることに、一定程度は成功したように思える。自民党は、経団連(大企業)の利害に配慮し、民主党が連合(大企業の正社員を中心とする労働組合)の利害を前面に出す中で、規制緩和や新自由主義的な経済政策を支持する有権者から一定の支持を得たのだ。

  ところが、支持はそこから伸びなかった。一因には、経済政策で、日銀法改正をはじめとする「リフレ」と言われる金融緩和政策のみを強く主張したことで、その他の経済政策の立案や実行能力に対する疑念を潜在的に持たれたことがある。

 量的緩和を伴う金融政策の効果について、専門家や実務家の意間には大いに見解の相違があり得るとしても、金融政策が万能の薬にはならないことはリフレ論者でも認めていることだ。「所得再分配ではなく生産要素の効率的な再配分が重要だ」という観点では、(1)資本市場改革、(2)労働市場改革、のセット改革をしなくては、非効率解消はできない。

  日本の労働市場が他の先進各国と比較しても、非常に非効率であることは多くの識者が指摘しているところだ。正社員の地位が、「整理解雇の四要件」(東京高裁昭和54年10月29日「東洋酸素事件」)やその他厚生労働行政などにより、既得権化しているため、そのしわ寄せが、若年層にきている。ところが、みんなの党は、2009年政権交代選挙時には、「所得再分配ではなく生産要素の効率的な再配分が重要だ」という観点とは正反対の、派遣労働の規制強化を打ち出した後、2010年の参議院選挙で方向を転換・修正するなど、混乱が見られた上、労働市場に関する論点を主要なアジェンダとして設定しなかった。

●資本市場改革には無関心


 さらに、資本市場改革については、筆者から見ると、みんなの党は、無関心としか評価できない。

 例えば、我が国の資本市場において、資本の効率性が、他の先進国と比較しても著しく極めて低いことは疑念の余地はない。上場企業の平均ROE(株主資本利益率)は5%程度であり、米国の3分の1、欧州でも少なくとも10%を超えている。例えば、10年前に代表的な指数であるS&P500に投資すると、10年で約75%増となった一方、日本の日経平均に投資していると、アベノミクス相場で株価が上がった今でも、35%程度だ。2004年7月の為替レートは、108円程度だったので、為替の変動を差し引いても、米国資本市場の長期的パフォーマンスは優れているが、それは、米国は経営陣が株主利益になる形での経営を実現する基盤があり、日本の市場は効率性の観点からも著しく劣る。

 民主党政権はこの点においても、(本来であれば経団連からの距離が離れていたので政治的には実行可能だった)何の改革案を示せなかった。

 基本的に民間企業は一定の競争のもとにさらされているが、我が国の場合、大手上場企業が海外の会社を買収する事例を聞くことがあっても、その逆はほとんどないという奇妙な現象が起きている。

 非効率な経営が行われると、外部の資本の出し手が株式を取得して、経営陣を取り替えされる可能性があるという潜在的な脅威が常に存在することが、資本市場の基本的機能を活かす。また、堀江貴文氏や村上世彰氏が、一般人から見ていて好感が持てるかどうかは別にして、「外部からものを言うこと」自体が、経営者をチェックする機能として、相当の効果があることを、理解するべきである。

 実際に、村上ファンドが、最初にTOBを仕掛けた昭栄という会社は、その後、経営を改善し、株主から見ても非常に優良な企業に変身している。いやな奴だからと言って、そいつを排除すればいいというわけではないし、検察の正義感や裁判所の経済観が、どのような帰結を招いているか、冷静に考える必要がある。

 第二次安倍政権になって、上場企業へ社外取締役の導入を実質的に義務付ける方向での改正となる会社法改正や、機関投資家と投資先企業へ、議決権行使を含む、対話を促進し、企業価値を増加させるために、100以上の機関投資家が「スチュワートシップ・コード」への受け入れを表明したというのは、画期的な出来事であった。

 こういった政策に積極的な役割を果たしたのは、塩崎恭久議員や柴山昌彦議員など、自民党内改革派と言われる議員で、みんなの党や結いの党などの第三局の国会議員が、積極的な役割を果たしたという事例を、残念ながら見つけることができない(社外取締役が万能ではないことや、本件の会社法の改正の問題点について、筆者は一部批判しているが、本論と離れるので、ここでは論じない。「社外取締役導入は万能薬にあらず」「会社法マフィアの実情」のコラムを参照)。

 みんなの党は、労働市場改革や資本市場改革の具体的な道筋を示し、具体的な議員立法などを体系的に準備して、自民党や民主党に対して、積極的に論戦を挑むのが筋だった。ところが、原発の廃止を主張し、消費税の増税を否定し、全体的な経済政策の道筋を示すことなく、ポピュリズム的な主張をただ繰り返すだけの、わけのわからない政党になっていた。

 ここに、最大の問題がある。(【コラム 山口亮】第三局の政治家に捧げる「みんなの党が壊れた理由」(下)に続く)【続】

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