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多言語獲得のすすめ 多種類学ぶほど高効率! 言語獲得の累積増進モデル
前回は、アメリカの心理言語学者ビオリカ・マリオン教授の最新の研究成果をもとに、外国語習得過程における3つの利点について解説した。
【こちらも】外国語学習が脳の構造と機能を変える! 外国語学習の過程から生まれる3つの利点
今回は外国語学習の累積増進モデルを紹介したい。簡単に言うと、外国語は多くの言語を学ぶほど、より深く速く効率よく学べるという内容だ。
東京大学大学院総合文化研究科の酒井邦嘉教授と梅島奎立助教は、マサチューセッツ工科大学言語哲学科のスザンヌ・フリン教授等とともに、言語獲得について長期にわたり共同研究を行ってきた。
参考: 多言語話者になるための脳科学的条件――新たな言語の文法習得を司る脳部位を特定―― | 東京大学 (u-tokyo.ac.jp)
共同研究ではfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を使い、日本人大学生31人を対象に、カザフ語の文法を習得する時の脳内活動を検測した。被験者31人はすでに英語を習得し、バイリンガルやマルチリンガルも含むが、カザフ語は参加者全員にとって初めて学ぶ言語だという。
酒井教授はこれまでの研究から、脳の「左下前頭回の背側部」が、母語や第2言語の文法処理に関わる「文法中枢」であることを突き止めていた。
今回31人の被験者がカザフ語の文法問題に答える時、より多くの言語を習得していた学生の「文法中枢」の脳領域で、より活発な脳内活動が見られた。そして文法中枢の脳活動が活発だった人ほど、カザフ語文法の成績が高く課題が易しく解けたという。
また、第2・第3言語に対してより熟達した二言語話者や多言語話者は、第3・第4言語であるカザフ語の成績が高くなることが確認された。これは、実験前に立てられた仮説「言語獲得の累積増進モデル(多言語の習得効果が累積することで、より深い獲得を可能にする)」と一致した。
fMRIは、脳の機能や活動を検知する技術だ。この技術によって外国語学習と脳の関係について多くの研究成果が得られてきた。
上述のビオリカ・マリオン教授もfMRIを使い、言語学習という脳活動が脳の構造と機能にどのような変化をもたらすかを説明している。この研究成果は、酒井教授等が確認した「言語獲得の累積増進モデル」のメカニズムにも深い関わりがある。
ビオリカ・マリオン教授の著書「言語の力」によると、私たちが脳を使って何かのタスクを行う時、その部位のニューロンの活動が活発になり血流も増える。fMRIは強力な磁気でその血流の変化を検知する。教授はfMRIによって、言語学習->ニューロンの活動->言語ネットワークの形成の過程を視覚化した。
これによると、まず発声や聞き取りといった語学学習において、2つのニューロンが刺激を受け、つながる道を形成する。つながったネットワークは一緒に活性化することが多いと強化され、少なければ結びつきが弱くなる。ネットワークのつながりは、使うことで強化され、使わないことによって消滅するということだ。
語学学習の累積は、脳内の神経ネットワークを拡大し、脳の構造を変化させる。こうして言語学習は積み重ねることによって、より効率的になり、効果が最大化され、機能が最適化されると言うのだ。
私たちが初めて英語を学んだ時、聴いたことが無い音に戸惑った。異なる語順や文法構造にはなかなか慣れないし、発音は未だに正確とは言えない。しかし、こうした戸惑いの克服、積み重ねた時間が、新たに学ぶ言語の理解を格段に容易にしている。
英語習得で苦労した人も、2番目、3番目の外国語にトライすれば意外とスムーズに楽しく学べるかもしれない。そして、この時に大事なのはどんな言語をどのように学ぶかということだ。次回は日本語の起源や親近性と言った観点から、日本人にとって学びやすい外国語について説明したい。(記事:薄井由・記事一覧を見る)
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