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15日、米テスラのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)は「今後の成長のため、コストの削減を進め、生産性を向上させる」との表現で、「人員削減を行う」方針を従業員に伝えた。削減の規模は明らかでないが、イーロン・マスクが守勢の決断に至ったのは、中国勢に対抗し得る低価格EVの実現が困難と判断したことによると見られる。
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テスラはEV(電気自動車)メーカーとして抜群の存在感と知名度を有するが、EVの生産を続けなければ存続できないという専業メーカーとしての弱点も有する。本来であれば色々な価格帯のEVを揃えておくのが望ましいにも関わらず、低価格帯の開発を断念することは相当な決断の筈だ。
世界のモビリティがEV へと雪崩を打った大きなきっかけは、脱炭素社会の実現を目指すとして欧州連合(EU)が22年10月に下した決定だ。35年に二酸化炭素(CO2)を排出する内燃機関車の販売を事実上禁止すると決めた。この決定があっという間に世界のスタンダードになったから、世界で熾烈なEV開発競争が始まった。
4〜5万もの部品を組み合わせて製造される内燃機関車に対して、凡そその半分程度の部品で製造されるEVへの新規参入障壁は低いというのが、大方の見方だった。
中国がEVへの変換を速やかに成し遂げた背景に、参入障壁の低さがあった上に、国家の政策と豊富な労働力とともに、バッテリーの製造に欠かせない希少金属を国内で調達できるというアドバンテージがあったことは否めない。23年に中国の自動車輸出が世界一の規模になったのは、恵まれた条件を生かして割安なEVを製造したことに尽きる。
EVが幅広く社会に受け入れられる最大のポイントが、価格であることは他の商品と変わらない。見栄えの良さとか虚栄心を満足させる高額のEVにも一定の需要はあるが、絶対数では低価格車に敵わない。
テスラは事業基盤を拡充するため、2〜3万ドル程度のEV開発を進めていたが、クオリティとコストのバランスで中国車と対抗できないと判断したようだ。
EV化推進のきっかけを作ったEUでは、中国車がこれほどの存在感を示すとは予期していなかったため、「中国政府の拠出する補助金が競争を歪めていないか?」と調査を開始した。
「新しもの好き」の需要が一巡したと見られているEVには、バッテリーが高価で重量も嵩むこと、充電インフラが不足で、後続距離や充電時間に不安があり、寒さに弱いという認識も広がっている。今後、EVの普及スピードを上げるためには、ハンディの克服が欠かせない。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)
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