相場展望6月19日 米国: FRBの今後の利上げは「2回ではなく⇒8回」を予想 日本: 株高が招く「年金基金・機関投資家の資産配分見直し」で6月最終週~7月初旬に売り圧力か?

2023年6月19日 09:55

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)6/15、NYダウ+428ドル高、34,408ドル(日経新聞より抜粋
  ・朝発表の5月小売売上高が個人消費の底堅さを示し、米景気への過度な悲観が薄れ、年初来高値を更新し、昨年12月以来およそ6カ月ぶりの高値を付けた。長期金利が低下したことも高PER(株価収益率)のハイテク株の買いを誘った。
  ・5月の小売売上高は前月比+0.3%増と、ダウジョーンズ通信がまとめた市場予想▲0.2%減に反して増加した。前月の+0.4%増から鈍化したものの、米国の金融引締め長期化観測がある中で、景気の底堅さが意識された。
  ・欧州中央銀行(ECB)は6/15の理事会で、8会合連続の利上げを決めた。米国も金融引締め局面にあるが、「人工知能(AI)などの投資テーマがある米国株に欧州株から資金が移ってきている」との指摘が聞かれた。
  ・米債券市場では、長期金利が前日終値3.79%から3.7%台前半まで切り下げた。金利の低下で相対的な割高感が薄れたハイテク株に買いが入った。
  ・ソフトウェアのマイクロソフト、スマホのアップルが買われ、いずれも上場来高値を更新した。工業製品・事務用品のスリーエム、建機のキャタピラーなど景気敏感株が上昇。前日に急落した医療保険のユナイテッドヘルスも高かった。交流サイトのメタ、ネット通販のアマゾンも上げた。一方、スポーツ用品のナイキ、クレジットカードのアメリカンエクスプレスは小幅安。

【前回は】相場展望6月15日 米国: 今後の見通し、株式市場は「楽観」・債券市場は「悲観」2極化 日本: 現物株買いに資金が流入、短期筋の外国人先物買いを跳ね返す

 2)6/16、NYダウ▲108ドル安、34,299ドル(日経新聞より抜粋
  ・米連邦準備制度理事会(FRB)の金融引締めが長期化するとの懸念から売り優勢。半面、米国の消費が底堅く推移するとの期待が相場を下支えした。
  ・リッチモンド連銀のバーキン総裁は6/16の講演で、米国の物価上昇率はFRBの目標である2%に戻る裏付けとなるデータが示されなければ「一段の金融引締めに賛同する」との認識を示した。FRBの金融引締めが長引き、将来の米景気が冷え込むとの警戒感が意識された。
  ・一方で、ミシガン大学が6/16に発表した6月の消費者調査では、1年先の予想インフレ率が3.3%と2021年3月以来の低さだった。FRBが6/13~14の連邦公開市場委員会(FOMC)後に示した政策金利見通しは年2回の利上げを見込む水準だったが、市場では1回の利上げにとどまるとの見方がある。「抑制されたインフレ期待が慎重な金融引締めの前兆になる」として、NYダウは一方的に下げ幅を広げる展開にはならなかった。
  ・ミシガン大の調査では、消費者態度指数が63.9と、市場予想60.2を上回った。消費が底堅さを保っているとの見方も相場を支えた。
  ・個別では、映画・娯楽のディズニーやソフトウェアのマイクロソフト、医療保険のユナイテッドヘルスが下落した。半面、ドラグストアのウォルトグリーンズや半導体のインテルが上昇した。半導体のエヌビディアや電気自動車のテスラなど大型株が指数を牽引した。

●2.米国株:FRBの今後の利上げは、「2回の+0.50%ではなく⇒8回+2.0%を予想」

 1)気迷いのFRB、「大丈夫か?」
  ・5月コア消費者物価指数(CPI)は+5.3%と下げ渋った。にも拘らず、5月総合CPIが前年同月比+4.0%に低下したことに着目し、FRBは「金利引き上げ停止」を決定した。
  ・総合CPIが低下したとはいえ、FRBの目標インフレ+2%の「2倍」とまだまだ 高い。
  ・低下した要因は、ガソリン価格が▲19%安と、下がったことが大きい。だが、原油価格は再度上昇傾向にある。産油国で構成するOPECプラスは、減産で原油価格を維持しようとしている。

 2)FRBの「利上げ停止」とした要因
  ・昨年3月以降で合計+5%と急ピッチな利上げの影響で、シリコンバレー銀行など米中堅銀行3行が経営破綻し、融資を厳格化し信用不安が増した。そして、その管理監督責任をFRBは追及された。
  ・その結果、責任回避としてFRBが出した答えが「6月の利上げ停止」だったと推察する。

 3)FRBは「年内に、あと2回の利上げ」も打ち出した
  ・ところが、FRBは利上げ停止に添えて、「年内あと2回の利上げ」、つまり、「+0.50%」の利上げも打ち出した。
  ・かつ、株式市場にあった「年内の利上げ停止期待を粉砕」した。
  ・それで、FRBの利上げへの道筋に「不明瞭さ」を付け加えてしまった。

 4)今後の利上げは、「2回ではなく⇒8回」となる可能性
  ・つまり、+0.25%×8回の利上げで、合計+2.00%の利上げを予想する。
  ・根拠は、CPI総合指数が+9.1%⇒+4%に低下させるに要した利上げ幅が+5%であったことに起因している。物価目標2%達成するにはさらに▲2%の低下が必要である。  そのためには、金利引き上げが追加で+2%必要となる。
  ・インフレ退治のために要する期間は、さらに約1年を要する見通し。

 5)インフレ退治のためには「FRBの覚悟」が必要
  ・早期のインフレ抑制をし、物価目標2%達成するには、FRBは+0.25%利上げを積み上げるのではなく、一気呵成の利上げが望ましい。
  ・緩い利上げを長期間継続すると、副作用として「リセッション(景気後退)」に陥る可能性が増すためだ。
  ・FRBの「覚悟が試される」。

●3.米5月小売売上高は前月比+0.3%増と、市場予想▲0.2%減を予想外に増加した。

 1)消費需要の底堅さが示された。(ブルームバーグ)

●4.米5月鉱工業生産は前月比▲0.2%と、予想+0.1%・4月+0.5%を下回る(フィスコ)

●5.米国商業用不動産に多額の融資、銀行経営へのリスク注視(NHKより抜粋

 1)米国のイエレン財務長官が議長を務める「金融安定監視委員会」が開かれ、在宅勤務の定着でオフィッスの空室率が高くなり、賃料収入が悪化している商業用  不動産を巡って多額の融資を行っている銀行の経営状況を注意深く監視していくことを確認した。

 2)小規模の銀行が多額の融資を商業用不動産に行っており、銀行破綻を再燃させるおそれがあるとして警戒が続いている。

●6.ラガルドECB総裁、「7月の利上げの公算が極めて高い」 (フィスコ)

 1)欧州中央銀行(ECB)は6/15、+0.25%の利上げ、政策金利を4.0%に決定した。

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)6/15、上海総合+23高、3,252(亜州リサーチより抜粋
  ・中国経済対策への期待感が相場を支える流れとなった。
  ・朝方公表された今月の中期貸出ファシリティ(MLF)金利については、10カ月ぶりに引き下げられた。6/20公表の最優遇貸出金利(LPR)に関しても、引き下げ観測が流れている。
  ・取引時間中に公表された5月の中国経済統計は、小売売上高が予想を下回るなど外電が6/13に報じたところによれば、一連の追加景気刺激策について、早ければ今週6/16にも、国務院で方針が決定される可能性がある。
  ・業種別では、消費関連の上げが目立ち、ハイテクも高く、公益・医薬品が上昇。半面、石油関連は冴えず、保険・海運・物流・メディア・娯楽が売られた。

 2)6/16、上海総合+20高、3,273(亜州リサーチより抜粋
  ・前日の地合いを継ぐ流れとなった。
  ・中国の金融緩和スタンスが引き続き材料視された。6/15公表された今月の中期貸付ファシリティ(MLF)金利について、10カ月ぶりに引き下げ、6/20公表の最優遇貸出金利(LPR)も引き下げ観測が浮上している。
  ・また、中国政府が景気刺激に向け、大規模なインフラ投資や住宅購入規制の緩和を検討している模様、などとする消息筋情報が伝わったこともプラスになった。
  ・業種別では、ハイテク関連の上げが目立ち、ゼネコン・鉄道設備などのインフラ関連が物色された。半面、発電・銀行・自動車は売られた。

●2.中国経済「予想外」の息切れ、今何が起きているの?(NHKより抜粋

 1)次々と悪い統計
  ・5月工業生産は前年同月から+3.5%と低い伸びにとどまった。昨年5月は上海市を中心に厳しい外出制限がとられていた時期だったので、力強さに欠けた数値といえる。
  ・6/9発表の5月消費者物価指数は前年同月比+0.2%上昇。4月は+0.1%でかろうじてプラスを保ったが、デフレ懸念が浮上している。

 2)若い世代(16~24歳)の失業率が20.8%と過去最悪の水準を更新
  ・若い世代を中心に雇用への不安が広がっている。

 3)専門家の見方
  ・消費・生産・投資は前月の4月比で、いずれもコロナ前を下回る水準に陥る。
  ・若年層を中心に雇用と所得環境が改善せず消費者心理が回復していない。モノ消費が伸びておらず、自動車や家電などの販売が悪い。不動産業は3月一時回復の兆しがあったが、その後低迷、浮上のきっかけ見えず。個人も企業も先行き不透明感が強い中、「心理が改善せず」雇用や所得が上向かず、財布のひもが固い。コロナ禍での「負の循環」から脱せていない。

 4)中国政府の対応
  ・中国政府は一定の対策は検討している。
  ・一方で、不動産については刺激すると投機的な動きが強まり、「バブル」懸念が出てくるし、コロナ禍で債務が膨張しているため財政規律を重視している。

 5)中国人民銀行(中央銀行)は金融緩和に踏み切るか?
  ・今はマインドが上向かない中での企業の資金需要が弱く、効果が限定される。

 6)今後の見通し
  ・個人や企業の「心理」転換は簡単ではなく、当面は回復が鈍い感じが続く。
  ・政府も大規模な刺激策をとる姿勢をみせず、劇的に変わる可能性はない。

 7)日本や世界経済に与える影響は?
  ・世界経済の牽引役として、中国経済の回復に期待されたが、役割を担えない。
  ・中国回復が鈍い状況が続けば、世界経済への影響が長期化する可能性が高い。
  ・日本の輸出は下押しになり、悪影響が広がる可能性がある。

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)6/15、日経平均▲16円安、33,485円(日経新聞より抜粋
  ・日経平均は前日まで連日でバブル経済崩壊後の高値を更新したとあって、目先の利益を確定する売りに押された。小幅ながら5営業日ぶりに反落した。
  ・米連邦準備制度理事会(FRB)が米連邦公開市場委員会(FOMC)で今後の追加利上げを示唆し、金融引締めに積極的な「タカ派」姿勢を強めた。これを受けて、6/14の米株式市場でNYダウが下落し、朝方の日本株相場全体の重荷となった。高値警戒感から上値での売りが目立つ中、大引けにかけては株価指数先物に売りが出て、日経平均は小幅安で終えた。
  ・日経平均は一時+200円超上げた。前日の米ハイテク株高や一時1ドル=140円台前半まで進んだ円安・ドル高を支えに、海外投機筋による株価先物指数への買いが今日も膨らむ場面があった。
  ・エーザイ・楽天・富士通が下落、一方、ニコン・荏原・クボタが上げた。

 2)6/16、日経平均+220円高、33,706円(日経新聞より抜粋
  ・日銀は昼頃まで開いた金融政策決定会合で大規模な緩和策の維持を決定。今国会で衆院解散の可能性がなくなったことで、前場に下げていた日経平均は日銀の会合結果を受けて、後場に入り上昇に転じた。
  ・日銀が緩和策の維持を決めたことを受け、朝方下げていた日経平均は後場に入って急速に切り返した。為替市場で1ドル=140円台後半まで円相場が伸び悩む中、海外投資家と見られる買いが続き、日経平均はこの日の高値近辺で終えた。
  ・業種別では、空運や医薬品・化学が高かった。総合商社株も軒並み高く、三井物や三菱商事は年初来高値を更新した。
  ・前日の米株式市場ではNYダウが年初来高値を更新。6/14まで開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)を通過して米国株は順調に推移しており、日本株の支えになった。
  ・日経平均は朝方に一時▲300円ほど下落する場面もあった。岸田首相は6/15、今国会での衆院解散は「考えていない」と発言した。日本株は「選挙=株高」との経験側から上げていた面もあり、目先の利益を確定する売りが先行した。
  ・資生堂・キャノン・ニコン・オリンパス・エムスリー・中外薬も高かった。半面、東急・シャープ・日揮は安かった。

●2.日本株:

 ・株高が招く「資産配分目標を超えた額の株売り圧力」に注意
  その時期は「6月最終週~7月初旬」の可能性

  1)年金基金や機関投資家は、資産運用に当たり資産配分目標を決定している。
   ・その資産配分は例えば「株式4割・債券6割」というように取り決めている。現状のように株高が進展すると、株式の割合が4割を超える。そうなった場合、運用資産の4割まで低下させるための「株売り」が実施される。
   ・その実施時期は、「四半期末」毎である。過去の状況を見ると、「6月最終週~7月初旬」に行われる可能性が高い。
   ・株安を招く「株高で資産配分目標を超えた相当分の、売り圧力」に注意したい。
   ・そして、株式を売却して得た資金で、「債券買い」が行われるケースもあり得るだろう。ただ、日本の債券市場では、さほど債券価格が上昇していないことを考えると「株売り⇒債券買い」が進展するか慎重に見極めたい。

●3.世界株に21兆円相当の売り圧力が今後数週間で、機関投資家のリバランスで(ブルームバーグ

 1)JPモルガンチェース予測によれば、政府系ファンドや年金基金などポートフォリオが資産配分目標に対応するために債券に再び傾斜する見通し。債券へのリバランスとしては2021年10~12月以降で最大になるという。

 2)年金基金やその他の機関投資家は、四半期末や月末毎に株式と債券で厳格な資産配分限度を守っている。今四半期は株式が債券をアウトパフォームしていることから、株式の投資を減らす必要がある。

 3)この定期的な資産配分見直しで、株式は▲3~▲5%程度の修正をもたらす可能性がある。

●4.島田掛川信用金庫、2023年3月期▲328億円最終赤字、有価証券売却で (静岡新聞)

 1)欧米の政策金利の急速引き上げに伴い、投資信託と外国証券の評価損が膨らみ処理。

■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)

 ・9020 JR東日本    業績好調。
 ・9022 JR東海     業績回復期待。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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