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「アリババ」を売却したソフトバンクGが、「アーム」に同じ役割を期待できないワケ! (後編)
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ソフトバンクグループ(SBG)が2000年に「アリババ」に出資した金額は20億円だった。その「アリババ」が14年にニューヨーク証券取引所に上場された際、初値が92.7ドルを記録し時価総額は25兆円規模に達した。新規上場企業がトヨタ自動車の22兆円を超えたと話題になった。その時点でSBGが保有する「アリババ」株の価値は約4000倍にも膨らみ、含み益は8兆円近くに達した。
【前回は】「アリババ」を売却したソフトバンクGが、「アーム」に同じ役割を期待できないワケ! (前編)
SBGは英半導体設計大手の「アーム」を16年に約3兆3000億円で買収した。「アリババ」の含み益があったから躊躇する必要がなかった。「アリババ」様々である。4月末に米国市場へ上場が申請された「アーム」の時価総額は、概ね4兆円~9兆円になるものと期待されている。最高値の9兆円になったとしても、投資金額の僅か3倍弱である。
おまけに SBGは22年3月に未上場の「アーム」株を担保に提供して、金融機関から約1兆円の借入を行なっている。仮に時価総額が最安値の4兆円に落ち着いた時、先食いした1兆円を除けばSBGの手元に残るのは買収金額程度だからチャラということになる。最高値の9兆円になったとしても(9-3.3-1=)4兆7000億円ほどが残るに過ぎず、23年3月期の決算でアリババ株が演じた1回分の役割に止まる。
もちろん4兆7000億円はとてつもない金額であるが、ことSBGに限って考えると1回の決算で増減する可能性のある程度の金額だから、「アーム」が「アリババ」の代わりを演じるのは荷が重すぎると言わざるを得ない。
SBGにとって厳しい状況は続くが、投資会社であるSBGにとって、最終赤字は投資先の現在価値を金額に換算した結果なので、資金の流出を意味しない。
問題があるとすれば、リスクの高い企業と評価されることで格付けの引き下げを招き、借入金利が上がって資金調達コストが上昇したり、最悪の場合資金調達が困難になることだ。
現に4月に国内の個人向けに発行された2220億円のハイブリッド債の利率は年4.75%だった。世界的に金利上昇局面を迎えていることも相まって、前回債(21年6月)との比較では2%のアップだった。年間では44億4000万円のコストアップになる。
23日には、S&Pグローバル(米格付け会社)がSBGの格付けを1段階引き下げたと発表した。SBGの投資資産全体のリスクが一段と高まったという判断だろう。
SBGが米投資ファンドで子会社の、フォートレス・インベストメント・グループの売却を決定したことも報じられている。17年に33億ドルで買収した企業を、約30億ドルで売却するものと見られている。差し引きで3億ドル(約400億円)の損失となる。
金利の上昇も売却損失の計上も現金の流出につながるから、流動性が削がれることは否めない。
11日の決算説明会で最高財務責任者の後藤芳光氏は「守りを貫いて来たので、手元の流動性が3月末で5兆円を超えた。今後攻勢に転じることの可否を検討する時期が来た」趣旨の発言をしている。じっとしていられない孫正義氏のことだから、「世情が落ち着くまで様子を見た方がいい」という発想はなさそうだ。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)
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