火星の衛星フォボスとダイモスは双子ではなかった JAXAらの研究

2022年8月24日 07:46

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火星とその 2 つの衛星、フォボス (前景) とダイモス (背景) の合成画像 (c) NASA/JPL-Caltech/GSFC/Univ. of Arizona

火星とその 2 つの衛星、フォボス (前景) とダイモス (背景) の合成画像 (c) NASA/JPL-Caltech/GSFC/Univ. of Arizona[写真拡大]

 火星は衛星を2つ従えている点では、地球より優位な立場にあるように見える。この2つの衛星は地球が従えている月と比べて非常に小さく(フォボスは約23km、ダイモスは約13kmしかない)、公転周期も短い。それだけでなくフォボスとダイモスの起源については謎のままで、かつては、小惑星帯にあった星が偶然火星の引力に捉えられたという説や、1つの小惑星が何らかの原因でフォボスとダイモスに分裂したという説などが唱えられてきた。

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 JAXAや東京工業大学の研究チームは、フォボスとダイモスは双子ではなかったことを実証した。この研究は、パリ大学やサンパウロ大学の研究者と共同で行なわれたもので、その成果は、科学論文サイトarxivで公開されている。

 研究では、フォボスとダイモスに関して、もともと1つの天体でありそれがある時期に分離したと仮定。この仮定に基づいてシミュレーションを行なったところ、分離後1万年以内に90%以上の確率で衝突することが判明したという。これは分離後10万年以内にフォボスとダイモスが100%衝突することを意味し、現在のように2つの星が火星の衛星として存在する現実は、あり得ないのだ。

 このシミュレーション結果が導く現在の火星は、フォボスとダイモスが衝突してこなごなになった残骸が、まるで土星のリングのように周回している姿だという。だが現実はそのようになっておらず、フォボスとダイモスがかつて1つの天体であった可能性は完全に否定されたわけだ。

 結局フォボスとダイモスの起源がこれで完全に解明されたわけではないが、複数存在していた仮説のうちの1つが、科学的な根拠が示されたうえで、否定された事実は大きな進歩だ。

 コンピューターシミュレーション技術は、宇宙で何十億年も前に起こった出来事や、何十億年後に起こる具体的な出来事を人類に分かりやすく、根拠をもって示してくれる。だが今回の研究でまだ不明となっているフォボスとダイモスの起源について、明確な結論を得るためには、これらの星々に探査機を送り込み、サンプルリターンによって詳細な分析をしていく必要がある。(記事:cedar3・記事一覧を見る

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