牛丼並みの手軽さが前面に出て・・・リースバックシステムの罠 (上)

2022年2月25日 16:41

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 高齢者が自宅を処分して現金を手にするには、売却かリースバック或いはリバースモーゲージといった方法がある。近年は相続等に関する考え方が従来とは大きく様変わりして、分割できない自宅が「争族」を引き起こすことを避けようという気配りが生まれたり、もっと豊かに老後を送りたいという意識の変化が大きいようだ。

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 ただ、賃貸住宅のオーナーが高齢者に賃貸したがらないという傾向が強く、自宅処分後の住まいに目途がなければ安易な売却はするべきでない。そこで自宅に住み続けながら自宅を現金化する方法として、リースバックとリバースモーゲージという手法が生み出された。

 リースバックは、リースバック運営会社に住宅を売却してまとまった現金を手にした上で、今までの自宅に住み続けられることが最大のセールスポイントだ。自宅の所有権者となったリースバック運営会社と賃貸契約を結んで、家賃を払いながら住み続けられるので、引っ越しの必要がなく近隣関係や学校を変えずに済み、気が変わったら「買い戻すことが出来る」と声高に告知されている。

 ずいぶん良い話に聞こえるが、リースバック運営会社は利益を生み出す事業としてリースバックを勧めているので、耳障りのいい話が先行するのは止むを得まい。問題はオーナーにとって不都合な話が、的確に説明されていない故のトラブルが、リースバック成立の数年後に発生することだ。

 リースバックを利用する上での留意点の1つ目は、「ずっと住み続けられる」訳ではないということだ。住宅売却後の賃貸契約は特に希望しない限り、賃貸期間が限定された「定期借家契約」となる。オーナーが不安を訴えても、丸め込まれてしまえば、定期借家契約の満了により自宅からの退去を迫られる数年後に、もはや抵抗するすべはない。

 リースバック運営会社にとって、オーナーから買い取って賃貸するのは方便のようなもので、定期借家の契約明けに第3者に売却することで事業が完結する。この仕組みを理解して、売却するオーナーがどれだけいるのかは心もとない。ために、追い出される時点で「話が違う」とトラブルが発生する。

 トラブルが発生した時に当初の契約を証明するものは、賃貸期間が限定された「定期借家契約」なのだから、オーナーの旗色は如何にも悪い。

 2つ目は売却価格と家賃との相関関係だ。オーナーが売却価格に不満を示して価格交渉する余地はあるが、売却価格を上げた分だけ家賃の金額に跳ね返る。つまり、売却価格と家賃はトレードオフの関係にあるから、当初設定価格よりも高い金額で売却できたオーナーは、スライドするように引き上げられた家賃を払う羽目になる。買い戻す時も同じだから、売却する時点で値上げ交渉に力を割くこと自体にあまり意味はないと腹を括るべきだろう。(下)に続く(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

続きは: 牛丼並みの手軽さが前面に出て・・・リースバックシステムの罠 (下)

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