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エキシビション「メンズ リング イヴ・ガストゥ コレクション」六本木で
ヴァン クリーフ&アーペル(Van Cleef & Arpels)がサポートする、ジュエリーと宝飾芸術の学校「レコール」によるエキシビション「メンズ リング イヴ・ガストゥ コレクション」が、東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3にて、2022年1月14日(金)から3月13日(日)まで開催される。
■貴重なメンズ リング約400点を一挙展示
「メンズ リング イヴ・ガストゥ コレクション」は、ジュエリーと宝飾芸術の学校「レコール」が、ヴァン クリーフ&アーペルのサポートにより開催するエキシビションだ。パリのアンティークディーラーとして知られたイヴ・ガストゥ(Yves Gastou)が、30年以上にわたって蒐集を続けてきた指輪のコレクションから、古代から現代に至る貴重なメンズ リング約400点を展示する。
今でこそジュエリーは、多かれ少なかれ女性が身に着けることが主流とされているが、歴史的に見れば、男性は古来より指輪を使用していた。一例を挙げると、皇帝や王族が印章として使用した指輪や、教皇や枢機卿が神や教会との結びつきをあらわすために用いたものなど、これらはいずれも所持者の権力や精神性を表現するものであった。身を飾ることは政治的な力と直結していたという点で、指輪は社会的な意味を帯びていたといえる。
近代以降、テーラードスーツが男性のフォーマルウェアを席巻するというように、男性のファッションは画一化の道を歩むこととなるが、そのなかでジュエリーは着用者の個性を発揮する要素として作用するようになる。たとえば、1970年代のアンダーグラウンド・シーンに登場したバイカーやロッカーは、既成の秩序に反旗を翻して結束するとき、そうした共同体の親密性のあらわれとして象徴的に指輪を用いたのだ。
本展で展示される指輪の数々からは、いわば個々の指輪が放つ眩くも微細なきらめきが交わることで、そういった文化の厚みが照り映えのごとく立ち上がる。具体的には、「歴史」「ゴシック」「キリスト教神秘主義」「ヴァニタス(空虚)」の4つの軸を設定するとともに、これらのカテゴリーでは捉え切ることができないコレクションの多様性を示す「幅広いコレクション」を加えた、あわせて5つのテーマのもとでイヴ・ガストゥのメンズ リング コレクションを紹介している。
■ゴシック・ムーブメントに着想を得た指輪
たとえば「ゴシック」。ロマン主義時代・18世紀末のイギリスでは、古典主義の反動として、芸術面から中世を再発見するゴシック・リヴァイバルの動きが起こり、19世紀を通じてヨーロッパ各地に広がった。これにより、中世の建築が再発見され、華麗な彩色を施した装飾写本などにもあらためて光が当てられることになった。そうした中世への関心は、墓地や廃墟と化した修道院、城、大聖堂などを舞台とする暗黒(ノワール)小説にも見ることができる。
本章では、そうした動向を参照元のひとつに生まれた、現代のゴシック・ムーブメントを着想元とする指輪を紹介。十字軍を現代的に再解釈し、深い紫色に彩られるアメジストを騎士の剣で装飾した指輪や、中世の城塞をモチーフとしたもの、薔薇で飾られた棺桶を表したものなど、“此処ならぬ何処か”へと誘うかのような指輪の数々を目にすることができる。
■「ヴァニタス」の系譜
一方で「ヴァニタス」とは、「死を忘れるな」を意味するテーマだ。17世紀ヨーロッパのバロック文化に花開いた「ヴァニタス」は、この世の存在は神聖な死のための必要条件に過ぎない、というキリスト教の思想を反映したものであり、18世紀にはこれを反映して髑髏や骸骨をモチーフとした指輪が数多く製作された。
「ヴァニタス(空虚)」の章では、この考えを映しだし、個人の遺毛を収めた「哀悼の指輪」などを紹介。また、第二次世界大戦後のアメリカで退役軍人のバイカー集団から生まれ、1950年代から60年代にかけて興ったバイカーの指輪などにも着目し、髑髏のモチーフを大胆に表した作例の数々を展示している。
■指輪の「魅惑」
また、本展では、イヴ・ガストゥのコレクターとしての側面にも着目し、蒐集にまつわるパーソナルなストーリーも随所で紹介。たとえば「キリスト教神秘主義」の章では、キリスト教の展開とともに変化を遂げる指輪のデザインを紹介する一方で、ガストゥの幼少期のいち挿話にふれている──街で宗教行列を目にしたガストゥは、教区の司教が嵌めた指輪を崇め、それに接吻しようとする信者の列に幾たびと加わろうとした。それを止めようとする母親に、少年は「あんなに綺麗な指輪なんだもの!」と抗議したという。そこに、ガストゥの指輪に対する熱意の原点を見ることができるだろう。
つまり本展では、イヴ・ガストゥという蒐集家が指輪に感じた、どこまでも個人的な「魅惑」を露わにしているように思える。「魅力」が、何かある対象がもつ「客観的な」美点──それが存在するのならば!──であるならば、「魅惑」とはある人がその対象に言いようもなく捉えられていると感じる、すぐれてパーソナルなものではなかろうか。そして、そのように感じられる「魅惑」とは、どこまでもその個人の背景や足跡と交わりつつ織りなされるものだろう。
指輪という、小さくも眩くきらめきを放つものが、一方では文化の厚みを、他方では蒐集者がどこまでも個人的に感じる「魅惑」を指し示す──そうした文化の総体と個人の感性との両極性に、本展の指輪が放つ「魅惑」があるのかもしれない。
■開催概要
エキシビション「メンズ リング イヴ・ガストゥ コレクション」
会期:2022年1月14日(金)〜3月13日(日) 会期中無休
会場:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3
住所:東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウンミッドタウン・ガーデン内
開館時間:10:00〜19:00
※観覧無料、予約不要
【問い合わせ先】
レコール事務局
TEL:0120-50-2895 (平日 11:00〜19:00)
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