相場展望9月6日 日本株、衆院選挙日までは強気 米国株9月は売られやすいが、過剰マネーが下支え

2021年9月6日 08:22

印刷

■I.米国株式市場

1.NYダウの推移
 1)9/2、NYダウ+131ドル高、35,443ドル(日経新聞)
  ・新規失業保険件数が減少し改善したことや、7月製造業受注が予想を上振れ、雇用回復の鈍化懸念が和らいだのを好感しNYダウは上昇。前日まで売りが優勢だった景気敏感株を中心に買いが優勢となった。
  ・市場では9/21~22の米連邦公開市場委員会(FOMC)でのテーパリング(量的緩和の縮小)開始決定の有無を占ううえでも、足下の雇用情勢を見極める必要があるとの声があった。

【前回は】相場展望9月2日 外資系買い仕掛け? 題目:(1) 衆院総選挙で経済対策 (2) ワクチン接種上昇で経済正常化 (3) 日本株の割安

 2)9/3、NYダウ▲73ドル安、35,369ドル
  ・米8月雇用統計の雇用者数が予想を大幅に下回る伸びにとどまり、景気回復ペースの減速を警戒した売りが広がった。
  ・同時に、賃金が予想以上の上昇となったため、高インフレへの懸念が再燃し、特に景気敏感株が売られる展開となり、NYダウは軟調に推移した。
  ・一方、ハイテクの買いは強く、半導体・同製造装置・テクノロジー・機器が上昇。反面、運輸・金融・航空・クルーズ船運営が下落した。

 3)9/6、レーバーデーの祝日で休場

●2.米国株、9月は経験則では売られやすいが、過剰マネーが下支えすると予想

 1)理由は、例年、ポートフォリオの入れ替え時期で、売られやすいという経験則がある。

 2)米国経済刺激策3.5兆円の具体的投資法案が、民主党穏健派の上院議員の賛成を得られない場合、ネガティブサプライズとなる可能性が出てくる。今まで、3.5兆ドルの大枠予算法の可決で米株式市場が上昇しただけに、反動リスクがあり得る。

 3)過剰マネーは継続しており、米国株を下支えすると予想する。

 4)テーパリング(金融量的緩和の段階的縮小)実施は、8月雇用統計を受けて10月⇒11月以降に遅らす可能性が出てきた。

●3.米8月雇用統計は+23.5万人と、予想72.5万人から大幅に下回る(フィスコ)

 1)7月の+94.3万人と比べても、大幅減となり、ネガティブサプライズとなった。要因は、デルタ株感染拡大が影響した可能性を指摘。(NHK)

 2)業種別では、「輸送・倉庫」が増加した一方、「小売」は減少し、これまで雇用を増やしていた「接客・レジャー」が横ばいにとどまった。(NHK)

 3)8月失業率は5.2%となり、予想と一致、7月は5.4%からは改善。(フィスコ)

●4.米8月ISM製造業景況指数は61.7と、予想61.6を上回った   (フィスコ)

 1)7月64.1からは低下。

●5.米8月サービス業PMIは55.1と、予想55.2から低下 (フィスコ)

 1)8月総合PMIは55.4。

●6.米・先週分新規失業保険申請件数34万件と、予想34.5万件から改善(フィスコ)     

●7.OPECプラスは、10月以降の小幅増産合意、大幅増産要求の米国要求に応じず(読売新聞)

●8.米民主党で穏健派のマルチン上院議員は、3.5兆ドル支出の一時停止を主張(ロイターより抜粋

 1)米上下両院は8月、予算の大枠となる3.5兆ドル(約385兆円)の予算決議案を可決しており、両院の民主党は現在、支出案の具体化を詰めている。

 2)民主党指導部は具体的な支出法案を、1兆ドル規模のインフラ投資法案と併せて数週間内に可決したい考え。

 3)上院民主党から1人でも造反者が出れば頓挫しかねない。上院では民主党と共和党の議席数が50対50と拮抗しており、下院でも民主党は辛うじて過半数を維持している状況である。

 4)マルチン上院議員(民主党)は、「インフレと債務が、既存の政府プログラムに与える重大な影響を、議会が無視している理由が明確にならない限り、私個人としては3.5兆ドルあるいはそれに近い追加支出を支持することはない」と表明した。

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)9/2、上海総合+29高、3,597(亜州リサーチ)
  ・経済対策に対する期待感が持続する流れとなった。
  ・8月中国製造業PMIが市場予想を大幅に下回る中、景気落ち込み回避で中国当局はインフラ投資含む財政・金融政策を推し進めるとの思惑が広がった。
  ・業種別では、ゼネコンや発電設備などインフレ建設関連の上げが目立った。反面、医薬品株は冴えなかった。

 2)9/3、上海総合▲15安、3,581(亜州リサーチ)
  ・売り圧力が意識される流れとなった。
  ・習近平国家主席が北京市に新たな証券取引所開設方針を表明したことが不安材料。既存市場のプレゼンス低下が懸念された。
  ・もっとも、下値を叩くような売りはなく、中国政府による経済対策への期待感が相場を下支えした。
  ・業種別では、自動車の下げが目立ち、レアアースや非鉄・鉄鋼も冴えない。反面、小売や酒造の消費関連株はしっかり。

●2.習近平主席9/2に、「北京証券取引所」設立を表明(日テレより抜粋

 1)上海、香港、深圳に次ぐ4カ所目の証券取引所となる。

 2)習指導部が掲げた、国民全体は豊かになる『共同富裕』に実現に向け、中小企業の成長を後押ししていく狙いがありそう。

 3)米中対立が深まる中、中国企業の国内での資金調達を支える狙いもあると見られる。

●3.中国アリババ、1,000億元(約1.7兆円)を習主席主導の「共同富裕」に支援(ロイターより抜粋

 1)中国政府は、国内の不平等是正に向け、企業に対し富の共有を促している。

 2)アリババの拠出金は、(1)中小企業への補助金や(2)運転手や配達員など単発で仕事を請け負う「ギグワーカー」向けの保険改善、などに使用される見込み。また、「共同富裕」を支援する200億元(0.34兆円)の基金も設立すると言う。

 3)インターネットサービス大手の騰訊控股(テンセント)も1,000億元の拠出を発表している。

●4.中国通信機器大手の中興通訊(ZTE)、2021年6月中間決算は純利益前年比2.2倍(新華社)


■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)9/2、日経平均+92円高、28,543円(日経新聞)
  ・前日の米ハイテク株高を追い風に、東京市場で半導体関連銘柄に買いが入った。
  ・また、米長期金利が低位にとどまり、東京市場でもグロース(成長)株に見直し買いが入った。
  ・買い一巡後、利益確定売りに押された。
  ・日経平均は前日までの3日間で+800円余り上げており、上昇の勢いは鈍かった。ただ、出遅れていた投資家が買いを入れたため、下値は堅かった。

 2)9/3、日経平均+584円高、29,128円(日経平均)
  ・朝方は米雇用関連指標が改善したことや、原油先物相場の上昇などを追い風に、東京市場は景気敏感株を中心に買いが優勢だった。
  ・前場の取引終了後に菅首相が自民党総裁選への出馬を見送る意向だと伝わると、日経平均は先物主導で値嵩の大型株中心に上げ幅を急拡大した。新総裁によって大胆な経済対策が打ち出されるとの期待が広がった。市場では「人心一新となり、自公政権にとって衆議院選で追い風になると踏んだ短期筋が飛びついた」との声もあった。
  ・日本製鉄・JFEが大幅上昇、レーザーテクも買われ、三越伊勢丹も高かった。反面、楽天・関西電力・JR西日本が安かった。

●2.日本株の9月相場は買い場で、特に選挙日まで上昇しやすい

 1)9月相場の特徴
  (1)衆議院総選挙と日経平均 : 政策投資を期待し、投票日まで上昇(確率9割)。
  (2)年間経験則では9月買い : 10~12月は上昇しやすい。
  (3)9月は高配当株が買われる: 中間配当取りで高配当が多い薬品株などが買われる。
  (4)一方、米国株式市場では9~10月は過去にショック発生で急落したことがある。ただ、その急落局面は「買い」であり、3~6カ月後に好収益を得られやすい。

 2)8/30~9/3の振り返り
  (1)個別銘柄で見ると、8/20に多くの株価が「底を打ち」、以降は上昇に転じている。
  (2)日経平均は上昇に転じた8/30から5連騰し、+1,487円高・+5.4%上昇し、9/3終値29,128円となった。
  (3)先物市場の外資系買残は増加に転換
    8/20 135,646枚 ⇒ 9/2 163,778枚  +28,132枚買増・+20.7%増
 
 3)注目点
  (1)9/3、菅首相の自民党総裁選への不出馬表明もあって+584円高したが、投資の森・先物によると外資系は9/3先物合計で▲6,371枚の大量売越した。外資系証券の内訳を見ると、大きく強弱が分かれ、日経平均の急騰で一部の外資系短期筋が売り浴びせをした結果である。
   Gサックス▲5,589枚売、モルガンスタンレー▲6,114枚売、UBS▲2,963枚売
   アムロ+4,201枚買、シティ+3,384枚買、Cスイス+849枚買

  (2)今回の上昇相場は、
   ・上昇相場を先読みした外資短期筋の買い仕掛けが相場に火をつけ、
   ・8/20までの売り方の強烈な「買い戻し」を誘引して日経平均上昇を加速させ、
   ・それを見たアルゴ取引が買い一辺倒の注文を出して更なる上昇となった、
   と理解できる。

  (3)兜町から早くも「日経平均36,000円」説が出てきたということは、証券筋の「売りを意識した買い煽り」かもしれない。証券筋から「日経平均高値説」が出てきた場合は、『天井近し』となりやすいことに注目したい。 

 4)今回の上昇相場は、衆議院選挙日まで続く可能性がある。
  (1)当面は急騰局面⇒その後、堅調な相場展開を予想する。
   ・日経平均は2月半ばから6カ月間調整をしてきただけに、上昇しやすくなっていた。
   ・外資系短期筋の一角のCスイスが8/30~9/3まで買越し転換・継続している。
   ・経験則として、選挙投票日まで日経平均は高い。

  (2)ただし、米国株の騰勢の勢いが弱含みを見せ始めてきている点に注意したい。
   ・最近の米国経済指標は、デルタ株感染拡大とインフレ懸念もあって景気後退と強弱入り混じった発表がされるようになってきている。
   ・また、米国株式市場の9月は売られやすいという経験則もある。

●3.日経平均は36,000円視野か? 混乱再来か? ポスト菅時代の思惑交錯(ブルームバーグより抜粋

 1)大和証券9/3リポートでは、新首相でコロナ病床を増加させ、経済回復を持続できれば日経平均は年内に現水準から+24%高い36,000円に上昇する可能性もあると指摘。

 2)コムジェスト・アセット・マネジメントのリチャード・ケイ氏は、
  ・首相交代で、日本の強みである(1)「世界をリードする」企業や(2)少ないコロナ死者数などに投資家が焦点を絞ることができるようになると見ている。
  ・菅首相は不確実な空気を作り出し、『日本が泥沼化している』との認識を与えたと指摘。

 3)CLSA証券のニコラス・スミス氏は、
  ・「外人投資家は間違いなく河野氏を好む。英語を話し、米国の大学で学んだ。これが大きくプラスに働く。河野氏の時代が来たと思う」と述べた。

 4)岸田氏は人気がないものの、政権を握れば「数十兆円」規模の経済対策を行うと言っており、市場は沸き立つ可能性がある。実際、誰が菅氏の後任となっても、政府支出を拡大させる公算は大きい。

 5)投資家の中には、依然として注意が必要だと主張する向きもいる。
  ・コロナ禍で非常事態宣言が実質的に慢性化しており、長期的なリスクもある。
  ・ピクテ投信投資顧問の松元常務は、「コロナ対策は誰がやっても難しい問題のはずだ」と指摘。
  ・「菅氏はすごく人気がないが、では代えたら良くなるにかと言うと、そんな問題ではない」と語った。

●4.企業動向

 1)オーケー 「関西スーパー」の買収意向を表明、H2Oと争奪戦(共同通信)
 2)電通   本社ビル3,000億円規模で売却、利益890億円見込む(読売新聞)
        売却先は不動産大手のヒューリックの特別目的会社(SPC)の模様
        コロナ禍で広告減少し2020年12月期最終損失▲1,595億円となり、構造改革を進めている
 3)岩谷産業  食品卸売「ユーエムシステム」を完全子会社化(時事通信)        
         感染症や景気変動の影響を受けにくい一般消費者向け食品事業を強化

●5.東証が取引終了時間を30分延長で調整、3年後の実現目指して(NHK)

■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)

 ・4612 日本ペイント  総合塗料メーカー。業績堅調。
 ・7732 トプコン    測量・GPS関連で世界規模。業績好調。
 ・4716 日本オラクル  クラウド事業。業績堅調。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

記事の先頭に戻る

関連キーワード

関連記事