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スーパー・ビリオネアが競う宇宙への旅のかたち、ジェフ・ベゾス氏先行のはずだったが?
ブルーオリジンが打ち上げた「ニューシェパード」 (c) Blue Origin[写真拡大]
7月、民間人の手による宇宙への挑戦が2件行われた。1つ目は米アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏が設立したブルーオリジンだ。将来の民間宇宙旅行を目指して2000年に設立され、約20年を経過した同社の従業員数は3500人を数えるが、セコイ売り上げは求めない夢の株式会社だ。
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膨大な開発費用と最先端の関連技術などが必須の宇宙開発は、国家がなすべき領域と考えられていた。アメリカと旧ソ連が先を争うかのように宇宙開発に血道を上げていたのは、投下した資金や人材の負担を凌駕する国家の威信が得られると考えられていたからだ。
有人宇宙飛行を敢行しても、月面に着陸しても当該国が経済的な利益を享受することはなかった。ただひたすら自国が世界で1番の国だと見せつけることが目的だったと言っても過言ではないだろう。
現在注目されている民間の宇宙開発モチベーションが、将来の事業化を意識した経済行為であるから、当時とは全く違う。ブルーオリジンにはジェフ・ベゾス氏と弟のマーク・ベゾス氏、女性で82歳のウォーリー・ファンク氏と18歳のオリバー・デーメン氏が乗り込んだ。
ベゾス兄弟は主宰者の立場であり、ファンク氏は1960年代に訓練を受けながら宇宙への夢が叶わなかった元女性宇宙飛行士として、ジェフ・ベゾス氏に招待された。今回の宇宙旅行の1名分の搭乗権は、オークションで2800万ドル(約31億円)で落札された。乗り込んだのはオランダ人投資家の息子、18歳のデーメン氏である。ベゾス兄弟の好奇心だけでなく、年齢や性別のバランスに対する配慮が感じられるチーム構成だ。
ベゾス氏が1番乗りをすると思われていたところに割込んできたのは、英ヴァージングループ創業者リチャード・ブランソン氏だ。2日、自身のツイッターに、11日に有人飛行を敢行する計画を掲載した。複雑で困難な宇宙空間へのチャレンジが、単なる先陣争いの思いで行われる訳はないため、ブランソン氏の計画も期せずして並行で進行していたのだろ。2004年に設立された宇宙旅行ビジネス会社、ヴァージン・ギャラクティック(Virgin Galactic)の社員3人とパイロット2人が同乗している。
両者の宇宙空間へのチャレンジは大きな違いがある。
ベゾス氏が搭乗した「ニューシェパード」は、所謂ロケットとして打ち上げられ、目標地点で搭乗しているカプセルが分離され、数分間の無重力状態を体験した後、パラシュートで帰還した。打ち上げから帰還までの所要時間は通算して10分程度だ。
ブランソン氏の「スペースシップ2」は、母船となる航空機「ホワイトナイト2」で空中に持ち上げられてから上空で切り離され、ロケットエンジンの噴射で宇宙空間に向かい、無重力状態を体験して出発地点に着陸した。母船から切り離されて帰還するまでの所要時間は15分程度だった。
到達高度はニューシェパードが100km超で、スペースシップ2は100km弱と言われている。国際航空連盟(FAI)が定める宇宙空間と大気圏の境目が海抜高度100kmに設けられた「カーマン・ライン」なので、両者の宇宙空間1番乗りの主張にどんな影響を与えるかという興味もある。
商業運航された場合の旅費は、ブルー・オリジンもヴァージン・ギャラクティックも1人20~30万ドル(約2200万円~3300万円)に落ち着くと推定されている。商業運航が可能なのはどちらも、再利用が可能な状態で帰還するからだ。
ブルー・オリジンのオークションには7000人以上が参加して、落札者の1名を除く全ては涙を飲んだ。ヴァージン・ギャラクティックには約600人が予約していると言う。将来の商業運航が、どのくらいの頻度で行われるかは不明だが、今回同様に数名程度が搭乗定員だと考えれば、現在の希望者が一巡するまでに必要とされる期間は、数10年単位のものになる。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)
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