低コストかつ環境に優しい高容量なリチウムイオン電池用負極材を開発 阪大

2020年9月5日 08:32

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シリコン切粉と膨張化黒鉛由来の黒鉛シートの複合体を用いたリチウムイオン電池負極(画像: 大阪大学の発表資料より)

シリコン切粉と膨張化黒鉛由来の黒鉛シートの複合体を用いたリチウムイオン電池負極(画像: 大阪大学の発表資料より)[写真拡大]

 自然エネルギー発電の需要増加に伴い、蓄電システムに使用するリチウムイオン電池の需要も大幅に高まっている。リチウムイオン電池の負極には黒鉛が主に使われてきたが、高容量材料としてシリコンが注目されている。大阪大学は3日、シリコンと黒鉛を複合した長寿命かつ高容量な電極材料を開発したと発表した。また、低コストかつ環境に優しい電極材料を使用したことも、重要な研究成果として挙げられている。

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 シリコンは高い容量を有することから、黒鉛に代わるリチウムイオン電池の負極材料として期待されてきた。しかしシリコンは充放電時に膨張収縮を繰り返して電極から剥がれ落ちやすく、充放電サイクルによって激しく劣化するという課題があった。

 そこで研究グループは、薄い板状のシリコン切粉を、柔軟な黒鉛シートの間に包み込むアプローチを試みた。シリコン切粉と黒鉛シートがともに二次元の形状を有するため、黒鉛シートがシリコンを包むような複合体を形成しやすいことに着目。このときにシリコンの凝集を抑制して均一に黒鉛シートで被うことが性能向上のポイントである。

 黒鉛シートで包むことで、シリコンが電極から剥がれ落ちにくくなり、数百サイクルの充放電でも容量が減少しにくくなった。また黒鉛シートは、リチウムイオンや電子がシリコン粒子へと移動して反応しやすくする働きがあることも、明らかになっている。300サイクル経過した時点でも、現在主に利用されている黒鉛の約3.4倍の容量を有することが実証されている。

 本研究で用いられたシリコン切粉は、太陽電池用のウエハーを作製する際に大量に発生するシリコンの切り屑である。また黒鉛シートも、パッキンの原料やその副産物を用いて低コストかつ室温で製造可能なものである。そのため、今回の研究成果は、環境負荷やコストを抑制しながら得られたという点においても重要な意義がある。今後はリチウムイオン電池の需要がさらに高まるため、低コストかつ環境に優しい生産に向けた知見が生かされると期待される。

 今回の研究成果は、9月8日から開催される応用物理学会秋季講演会にて発表される。

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