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三菱スペースジェット納入問題! (4) 航空会社の経営が逼迫している!
三菱スペースジェット飛行試験機・10号機(画像: 三菱航空機の発表資料より)[写真拡大]
三菱重工業がスペースジェット(MSJ)の開発で、6度もの納入延期を繰り返しながら開発を続けてきた理由の1つが、小型機市場の需要増加が見込まれていたことだった。格安航空会社(LCC)の台頭が続いていた航空機業界では、100座席未満の小型機に今後20年間で5000機以上の需要増加が見込まれていた。
【前回は】三菱スペースジェット納入問題! (3) 開発の遅れと今後のペースダウンに整合性はあるのか
三菱重工業がカナダのボンバルディアから小型機の「CRJ」部門を買収する決断を下した背景には、MSJ就航後のメンテナンス環境を確保したいという想いと共に、「CRJ」部門が自社のものとなれば、競合大手がブラジルのエンブラエル1社に絞られる、という計算があった筈だ。
将来の有望なマーケットで、有力な競合メーカーが1社しか存在しないという大前提はもろくも崩れた。新型コロナウイルスが世界中を席巻し、航空機の需要が”蒸発”したと伝えられる現在の経済環境は、ついこの間まで経営問題に微塵も不安を抱かせなかった大手航空会社ですら、経営の危機がささやかれる状況に追い込まれている。世界の主要な航空会社の20年1~3月期決算は、開示されている約40社合計で2兆円を超す最終赤字となった。
米ユナイテッド航空ではマイレージ事業を担保にして、約5400億円の融資枠を設定することで銀行団と合意に達した。顧客に付与したポイントという負債を担保にするという、逆転の発想までもが金融界の話題になっている。
タイではナショナルフラッグが破綻した。タイ国際航空には新型コロナウイルスの感染拡大による全面的な運航停止以外にも、不適切な経営上の問題が取り沙汰されているが、経営破綻へのとどめを刺したのは新型コロナウイルスである。
感染防止の閉塞感に耐えられず、徐々に経済活動の再開を模索する動きは出始めたものの、早期に国をまたぐ人々の往来が回復すると想定する人は少ない。大方が想定する、24年頃には回復する言う予想が楽観的なのか、悲観的なのかすら判断できない。更に言えばその頃には今までとは全く違った生活習慣が根付いていて、人々の行動様式そのものが変化している可能性すら考えられる。
少なくとも有効なワクチンや、決定的な効果が認められる治療薬が開発されるまでの間、旅客需要の本格的な回復を期待することは出来ない、と考えて準備するのが経営者だ。じっと息を潜めてこの苦境を乗り切ろうとしている航空会社にとっては、たとえ発注済みではあってもすんなり新型機を導入することは考えにくい。
つまり、三菱航空機が今までのペースで開発を続けて”遅れながらも”型式証明を取得したとしても、生き残ることに必死な”お客さん”が新機導入という投資に目を向ける可能性は低い。三菱航空機が選択できるのは、新型コロナウイルスの終息時期を見極めながらMSJの開発を進めることだろう。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)
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