アト秒レーザーの量子制御法を新たに解明 量子コンピューターに応用も 早大ら

2020年6月17日 17:42

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エネルギー準位と励起の模式図。気体の原子の場合は、異なる磁気量子数を持つエネルギー準位はほぼ重なっているため、極端紫外光で分けることは困難という(aの場合)。一方で高強度の赤外光を加えると、全体的にエネルギー準位がシフトする。さらに赤外光の波長(エネルギー)を他の準位と共鳴させると、異なる磁気量子数を持つエネルギー準位が分裂するという(bの場合)。(画像: 早稲田大学の発表資料より)

エネルギー準位と励起の模式図。気体の原子の場合は、異なる磁気量子数を持つエネルギー準位はほぼ重なっているため、極端紫外光で分けることは困難という(aの場合)。一方で高強度の赤外光を加えると、全体的にエネルギー準位がシフトする。さらに赤外光の波長(エネルギー)を他の準位と共鳴させると、異なる磁気量子数を持つエネルギー準位が分裂するという(bの場合)。(画像: 早稲田大学の発表資料より)[写真拡大]

 アト秒レーザー科学と呼ばれる学際領域を知っているだろうか。100京分の1秒の時間幅でのみ光る「アト秒レーザー」を用い、物質科学や生命科学の進展を図る新たな学問領域で、超高速で動く原子や分子の運動メカニズムの解明などに活用されている。

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 早稲田大学と独マックスボルン研究所、カナダ国立研究機構でつくる研究グループは、アド秒レーザー光と赤外光による新たな量子制御法の解明に成功した。2つのレーザー光の波長と強度を制御することで、これまで困難だと考えられてきた人為的な特定の量子状態(励起状態)の形成を実現。研究グループは「効率的な化学反応制御の確立のほか、量子コンピューターへの応用が期待される」としている。

 原子は、構成する電子のエネルギー状態(準位)に応じて、最もエネルギーが低い基底状態や、それ以外のエネルギーが高い励起状態に移る性質を持つ。一方で、そのような量子状態を選択的に制御する技術の実現は、電子が原子のどこにいるかを示す物質の電子波動関数が強く影響し、難しいと考えられてきた。

 そうした中でも、研究グループは2017年、アド秒レーザーの1つである極端紫外レーザー光と赤外光を組み合わせることで、ネオン原子の量子状態の選択が可能になることを発表。極端紫外レーザー光単独では、エネルギー準位が励起状態で重なり、基底状態への移行が難しいものの、赤外光を組み合わせると、エネルギー準位が自在に変化することを見出している。

 ただ、なぜそれが可能になるかという物理的メカニズムは分かっておらず、発展研究として今回、新たな測定と量子学的計算を実施した。

 実験研究では、アド秒レーザー光と赤外光を同時にネオン原子に照射し、放出された電子の運動量を測定。すると、初期条件での赤外光の放射量では、磁気量子数は励起状態とほぼイコールのm=0を示すのに対し、赤外光の強度を落とすと、m=1を表す分布を選択的に測定できた。

 さらにモデル解析の結果、赤外光のエネルギーが、偶発的に電子の準位間のエネルギーに同じになる時、m=0とm=1のエネルギー準位が大きく変化することが分かった。

 加えて、どのようなアト秒レーザー光の波長と赤外光の組み合わせで、どんな量子状態を生成するかを調査するために、アト秒レーザー光の波長を0.4eV程度連続的にスキャンすると同時に、電子の運動量分布を同時に測定できるように測定系を構築。これにより、電子の位置を示す波動関数がどのような条件で移り変わるかが判明し、数値上で理論計算できるようになったという。

 研究グループは、それらの研究成果を踏まえ「光による電子の励起過程の制御に新たな方法を提示した」と強調。波長を変えられるアト秒レーザー光と、高強度なレーザー光の組み合わせにより、「特定の量子状態を選択的に励起できる」としている。(記事:小村海・記事一覧を見る

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