若年性ネフロン癆のヒトiPS細胞を樹立 難病の治療法に期待 理研などの研究

2020年5月6日 12:19

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研究の概要(理化学研究所の発表より)

研究の概要(理化学研究所の発表より)[写真拡大]

 理化学研究所(理研)や近畿大学などの研究グループは、遺伝性腎臓病の1つで難病とされる「若年性ネフロン癆(ろう)」患者由来のiPS細胞(人工多能性幹細胞)の樹立に成功したと発表した。これにより、この疾患の細胞モデルの構築を実現したことになり、今後研究グループは、複製したiPS細胞を用い、病気のメカニズム解明や新たな治療法の確立を目指す。成果は、科学雑誌「Stem Cell Research」オンライン版に掲載されている。

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 小児期に罹る若年性ネフロン癆は、腎臓に液状のたまった袋ができ、ゆっくりと腎機能が低下する末期腎不全の原因疾患とされる。発症すると、腎臓内にある突起物「一次繊毛」が上手く機能しなくなり、腎臓に必要な成分を吸収する尿細管の炎症や、腎組織の硬化など機能性異常を誘発する。腎機能障害の進行に伴い、多尿や身体発育の遅れ、貧血といった症状が現れる。

 一次繊毛のタンパク質合成にかかわるNPHP遺伝子など、13の遺伝子が発症要因とされているが、遺伝子を記録する染色体の欠失変異から発症に至るメカニズムは明らかになっていない。さらに、治療法も親族などから臓器の提供を受ける腎移植以外に有効な手立てがないのが実情だ。近年は国内に500人の患者が常におり、発症機序の解明と新たな治療法の確立が待たれている。

 そんな中、研究グループは、身体の様々な組織になれるiPS細胞を使い、病気の解明に貢献する病態モデルの構築を図ることにした。この病態モデル作製の方法は、遺伝子改変技術など従来の手法より精度が高いとされる。直近では、2020年3月に国立循環器研究センターと京都大のチームが、認知症などを引き起こす遺伝子の血管の難病「CADASIL(カダシル)」の病態をiPS細胞を使い再現することに成功している。

 今回、理研などの研究グループは、患者2人の血液から、発がん性の問題が少ないエピソーマルプラスミドベクターを用いて6株のiPS細胞をつくった。理研や東京理科大の3つの組織からなる解析チームがこのiPS細胞を解析したところ、発症の責任遺伝子の1つであるNPHP1遺伝子が欠損された状態が再現され、iPS細胞の多能性や自己複製が確認された。

 研究グループは、「今後、若年性ネフロン癆の発生機序の解明や新しい治療法の開発に役立てられることが期待できる」としている。確認可能な範囲で、患者由来iPS細胞は231疾患、うち指定難病に限っては155疾患(いずれも2018年4月時点)が樹立されている。 (記事:小村海・記事一覧を見る

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