SOMPOケアは介護業界の「改善」を牽引できるか

2019年7月8日 11:50

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 匿名を条件に「自分もそのIRミーティングに参加していた」というアナリスト(仮にA氏とする)に聞いた。IRミーティングとは5月28日に開かれたSOMPOホールディングス(以下、SOMPOHD)の、アナリスト説明会である。

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 伝手を頼りA氏に話を聞いた理由はこうだ。この日以降メディアに「2017年度から20年度にかけ強靭体質化を進め、100億円の収益改善効果をあげるため4000人規模の人員削減を予定しているという話だった」(A氏)という会社側の説明に対し、「削減する人員は介護事業やセキュリティ事業(子会社)に配置転換する」という報道がなされた。そして「大手企業が人員解雇に関し子会社への配転は、とっておきの裏ワザ。(こうした配転は)懲罰か」といった論まで囁かれるようになったからである。

 事実なら、是非にも事実を取材したいと考えた。事前の準備として当日その場にいたA氏に話を聞いたのである。

 だがA氏は「当日の説明は、4000人については、定年退職者による自然減と新規採用の抑制で実現するという以外の説明は全くなかった」とした。SOMPOHDも取材申し込みに対して「RPAなどの活用により生産性を高めている。4000人の大半は定年や自己退職都合による自然減であり、国内外で取り組んでいるデジタル関連の新事業や要請に応じて企業・代理店への配置もある」という返答だった。

 A氏とSOMPOHDの言を受け、前記の「報道」の真偽を取材することはやめた。

 それより私には是非論はともかく「高齢化社会の進捗に伴い、離職率の高さ⇔処遇の低さ=介護力の低下を改善するには大手資本による介護業界の再編が不可欠」とする持論がある。

 SOMPOHDによる子会社SOMPOケアを介しての介護事業参入は、その意味で評価していた。取材の矛先を「SOMPOケアの今」に向けた。(私が)期待する方向でことは進んでいるのか。介護業界に明るいアナリストを取材し、SOMPOケア自体が発信している情報から総合的に「今」を把握した。以下の様な具合である。

 ★企業内大学、「SOMPOケア ユニバーシティ(17年)」「同関西(18年)」の開設: 産学連携のプログラムを導入するなど、実践的な施設・在宅介護の実技学習の場だ。SOMPOケア以外の介護職者にも開放されている。

★SOMPOケア傘下企業の待遇共通化: 退職金制度・再雇用制度(65歳以降も正社員と同等待遇の嘱託社員として勤務可能)・手当(日祝・保育・リーダー手当等の)統一。

★SOMPOケア FOOD LAB開設(18年): 食事・栄養に関する企画・商品開発スタッフの研修期間。例えば認知症予防が期待できるDHA(魚)・イソフラボン(豆)・セサミン(ゴマ)・カカオ(チョコレート)などを活かしたメニューの開発などを手掛けている。

★昇給昇格制度導入: 19年4月。10月には特定処遇改善加算の導入予定。

★19年度の新施策: 介護福祉士の処遇を各地域トップ水準にするため、年間で10億円超の改善計画。例えば世田谷区のモデル収入330万円を第1段階で380万円に引き上げることを目指す。

★至22年度を目途に、介護職のリーダークラスの処遇を看護士並みの水準への引き上げを目指す。

 介護業界の8割方が中小事業者。大手資本の参入が介護業界の処遇改善⇔離職率低下を牽引する役割を期待したい。(記事:千葉明・記事一覧を見る

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