三菱重工が決断した、ボンバルディア「CRJ事業」買収の何故?

2019年6月28日 07:39

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ボンバルディアのCRJ200。(c) 123rf

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 25日、三菱重工業はカナダ・ボンバルディアと、リージョナルジェット機「CRJ」事業の譲渡契約を締結したことを発表した。事業取得に5億5千万ドル(約590億円)を支払い、2億ドル(約210億円)の債務を継承する。合計約800億円の投資となる。三菱重工は1億8000万ドル(約190億円)と評価されるCRJ保有信託プログラムの受益権を、同時に継承する。

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 この契約によって三菱重工が得るのは、主に2カ所のサービス・サポート拠点(カナダのモントリオールとトロント)と、2カ所のサービスセンター(米ブリッジポートとツーソン)、CRJシリーズの保守・カスタマーサポート・改修等のエンジニア部門と、マーケティング機能及び型式証明の継承だ。

 10年を超える開発期間を経て、就航への期待が現実味を帯びてきた「三菱スペースジェット(Mitsubishi SpaceJet、旧MRJ)」は、主力機種と位置付けられた70座席級の「スペースジェットM100 」と、90座席級の「スペースジェットM90」の2機体で構成されることが既に公表されている。今まで開発に苦しんでいたため、販売後の保守サービスや後方支援のシステム構築が後手に回っていたことは容易に想像できる。

 ボンバルディアはビジネスジェット部門、客席数50~100席のCRJ部門、同100~150席の「Cシリーズ」部門と、3本柱で民間航空機事業を推進してきた。既に「Cシリーズ」は事実上欧州エアバス傘下となり、今回CRJ部門が三菱重工に売却されることで、今後はビジネスジェット部門に集中する見込みだ。

 小型機市場は格安航空会社(LCC)の増加により需要は増勢だが、低価格運賃を売りにしている業界が対象であるだけに、機体価格への要求はシビアで収益の確保に苦労すると言われる。ボンバルディアは比較的に儲けが大きいとされる「Cシリーズ」の開発を進めていたが、開発費用が膨れ上がり競合も激しくなったことから同事業はエアバスに売却した。CRJ部門を三菱重工業へ売却する決断に至ったのも、同様な判断に基づくと見られる。

 150席以下の小型機市場は、ボンバルディとブラジルのエンブラエルの2社が世界シェアの80%を握って来た。その敵役のエンブラエルが展開してきた80~150席の「Eジェット」は、ボーイングが主導する共同出資会社に19年末までに移管される予定だ。

 三菱航空機はそのボーイングと「カスタマーサポート契約」を締結している。旧MRJが就航した暁に、世界の空港に於ける現地サービスを期待した布石だった。ところが、ボーイングが「Eジェット」を事実上傘下におさめることになったため、実質的なライバルに保守を依頼するという甚だ不都合な状況なったことが、今回の決断の引き金になったのだろう。

 問題は、事業取得費と債務継承の合計約800億円に上る投資額とのコスパがどうなるかということだ。スペースジェットM90を完成させ、同M100の開発を進めながら、自前のバックヤード構築を並行して整備する体力はない。既に6000億円の投資を行った旧MRJ事業を投げ出す選択肢がない以上、次善の策として実績のある事業の買収を考えることは、止むを得ない現実的な対応と受け止める他はない。

 「三菱スペースジェット」は、「Cシリーズ」を傘下におさめた欧州エアバスと、「Eジェット」を傘下におさめるボーイングという巨大なライバルと激突する。巨額の投資を行った事業から退くのは地獄だが、進むのも似たようなものだ。低燃費と低騒音というセールスポイントが色褪せないうちに、事業体制を確立することが最優先と判断したように見える。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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