次世代AIの登場間近!? 汎用人工知能が作り出す近未来

2019年6月1日 21:08

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 “人間のように考える機械”人工知能(AI)に関する研究は1950年代に始まり、その後技術的進歩を重ねて社会や産業、人のあり方にも影響を投げかけている。2000年代に入って機械学習という処理プロセスが開発されたことで、人間による指示を必要としない自己生成型のプロセスが可能になり、AIという存在が大きく取り上げられるようになっている。

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 現在のAIはまだ不完全で、本来の意味で「人間のように考える」ことはできない。データを処理し、演算により計算結果を出力するという点では従来のコンピュータの範囲を出ていない。

 今後AIは、どのような方向に進むのだろうか。明確な結論を出すことは到底できないが、技術の進むべき方向はいくつか示されている。その一つが汎用人工知能(Artificial General Intelligence: AGI)だ。

 先日、デジタル社会のグローバル・サービス・プロバイダとして活動するアメリカのNEORISが、AIの未来図を描く報告書を発表した。今回はこのレポートを中心に、次世代のAIの方向と、AGIにより可能となる新しい社会について最新の報道から見てみたい。

● ニューロモーフィック・コンピューティングの登場

 現在のAIは特化型人工知能、又は狭義の人工知能(Artificial Narrow Intelligence: ANI)と呼ばれているものだ。ANIはある作業に限定して、学習機能を生かしたデータ処理を行い、サービスを提供する。これに対して、今後登場するAGIは、あらゆるデータ処理に対応することができる汎用のシステムになる。

 現在のAIの特徴となっている学習機能は、データ処理における個々の要素の関連付けに、ニューラルネットワークと呼ばれる仕組みを使う。これは生物の神経系でのデータ処理方法を基にしたもので、データ間の重要性判定が自動的に行われる。

 しかしニューラルネットワークを構成するのは、従来のコンピュータと同じ半導体チップだ。ニューラルネットワークはデータ処理というソフト上の技術革新だといえる。

 これに対して、AGIではコンピュータのハードテクノロジーそのものに技術革新が求められる。ニューロモーフィック(脳模倣型)・コンピューティングと呼ばれるこの技術は、チップ同士の関係付けによって与えられたデータを認識する。チップは計算の結果を一つの数値で出力するのではなく、入力されたデータから、様々な状況を「起こりうるもの」として確率論的に出力する。

 与えられた状況が変化するごとに、一つひとつの「起こりうる」状態の確率は変化し、状況が終了すればその確率はゼロ(起こらなかった)か1(起こった)かに確定する。例として自動運転車が自動走行中に道路の端からボールが転がってきたとしよう。ボールに続いて子どもが飛び出してくるだろうか。ANIは飛び出してきたのがボールであることは判別できるが、それだけでは車を停めるべきかどうかの決定には不十分だろう。

 ニューロモーフィックAIは、子どもが飛び出してくる「かもしれない」という状況を確率として認識する。次の瞬間に、ボールはさらに道路の真ん中に移動するが、子どもの姿は見えない。さらに次の瞬間、その次の瞬間と子どもが飛び出してくる確率は変化し、ボールが車体の後ろに抜けてしまえば急ブレーキをかけるという判断の確率はゼロになる。

●AGIによる産業への変化

 現在、AIによる産業の変化が最も急速に進んでいるのが金融、メディア、製造の3部門だ。今後数十年で達成されるAIの一層の進歩が、この産業分野を大きく変えるだろう。

 金融業界では、個人用の投資ポートフォリオや企業によるM&A案件の分析などに当たって、個人ごと、企業ごとにその背景や経緯を踏まえ、投資の適否を判断することができるようになる。カリフォルニアのベンチャー企業、BrainChipではチップ上にニューロモーフィック・システムを搭載したNSoCを構成し、チップ上で株式市場の動きを予測することに成功している。

 メディア業界では、IoTと5Gにより全てのメディアがつながるだろう。AGIを中心に置いて文字情報、音声情報、イメージ及びパターン認識が融合され、さらに感情分析を加えた多面的な嗜好の分析がリアルタイムで達成される。この「ダイナミック・スケジューリング」によって視聴者は、自分が見ている番組のシナリオを自分の好みに合うように「制作」できるという。

 製造業では、生産からメンテナンス、製品設計までを通しAIの内部にシミュレート可能な現実のモデル「デジタル・ツイン」が構築される。全地点でのニューモフィック処理により、生産ユニットレベルでの故障予知及びライフサイクルマネジメントが可能となる。不良を事前に発見し、歩留まりを最大にする製品設計の実現のためには、3D印刷とAGIの協調が期待されている。

 AGIの研究はすでに始まっており、Intelはソフトに依存せずに自己学習を行うことができる、ニューロモーフィック・チップ「Loihi」を開発している。AGIの実現により、人工知能は学習のために膨大なデータベースへのアクセスを必要としなくなる。トレーニングデータで基礎学習をさせたAGIとブロッチェーンを融合させれば、サービスごとに完全に個別のサポートができることになる。

 AGIの登場は人工知能の「非中央集権化」、「ユビキタス化」を促進する。これにより、AIと人間の関係はよりパーソナライズすることが可能になる。きめ細かいサービスが実現することは好ましいが、提供される情報の質や密度の違いによっては、格差の助長や階級の選別につながることも懸念される。

 ニューロモーフィックAIは、複数の要素情報を並列的・確率的に処理して「状況」を記述できる。AGIによるユビキタス・リアルタイム処理は大都市の交通渋滞解消、全エネルギー資源分配のスマート化、局地的環境変動への対処など、産業レベルを超える社会問題の処理にも有効なソリューションを提供することができるだろう。

 すでにANIからAGIへの移行は始まっている。報告書では2023年までのAGI市場の成長を508億ドル(約5兆6,000億円)と予測し、2040年までには人間と同じ知性を持つAIが登場するという。

 次世代AIは産業のカスタマイゼーションを促進し、人類社会の課題を解決するだろうか。それとも優勝劣敗を先鋭化し、新たな課題を作り出すのだろうか。予兆となる変化が、数年の間に現実に表れ始めるだろう。(記事:詠一郎・記事一覧を見る

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