剣が峰(?)の生保の資産運用を考える

2019年5月27日 11:52

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 断るまでもなく生保の資産運用のベースは、利回り重視の国債投資が常識だった。だが今、大手生保の「高リスク資産」投資への傾斜が強まりを見せている。各社は今年度上半期の運用姿勢で「低利回りの日本国債への投資抑制」-「リスクに応じ高い利回りが期待できる外債等に運用資産を振り向ける」とする方針を打ち出した。

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 生保のこうした方向に金融庁は神経を尖らしている。2月の生保業界との会合で「一部生保では高利回りを求め債務不履行をも選考するかの動きがみられる」と牽制し、「リスクが顕在化した場合、生保の財務体質に影響が出かねない」と言及した。

 だが某大手生保の資産運用担当執行役員は「環境を、リスクを取りにいかずしてリターンなし、の状況にしたのは誰なのだ」と気色ばむ。事実最大手の日本生命はリスクヘッジを大前提に「米国債投資」をスルーし「外国社債投資」にウエイトを置く方向を打ち出した。

 明治安田生命も国内外の「社債・事業債投資」を積極化する方針を示している。社債・事業債は(米国)国債に比し、デフォルトの危険性が高い。また第一生命はリスクに立ち向かう象徴として、未上場企業を投資対象とする専門部署を設けた。

 為替リスクへのヘッジ策を施しながらの米国債投資を何故、パッシングするのか。「米国景気の弱腰」論が、その背景にある。米国金融界の重鎮から米国景気に「?」を投げかける発言が続いている。

 いずれもブルームバーグの配信だが、5月22日にはニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁の「米国経済は現時点では好位置にあるが貿易関税が既にインフレを押し上げ始めており、関税が引き上げられるに伴い影響は更に大きくなるだろう」とする発言を伝え、翌23日にはローゼングレン・ボストン連銀総裁の「対中摩擦で不確実性、米経済下振れリスク強まる」といった趣旨の見解を報じている。

 社債・事業債投資でヘッジ機能を効かせた高利回りを、という生保の姿勢は果たして功を奏するのか。米シティグループのストラテジストの発言としてこう伝えられている。「アルゴリズム(機械的に繰り返される取引)と流動性低下が相場の急変動に拍車をかけ、1月のいわゆるフラッシュクラッシュのような事態が起こりかねない。資産回避先の円が年内に再度104円前後に達する」。

 そんな見方に接した直後だけに23日のニューヨーク外為市場の「対ドル0.75円高(最終取引の中央値:109.60円)」には、いやーなものを感じた。5月の米国製造業PMI(購買担当者景気指数、速報値)が約9年半ぶりの低水準に落ち込んだことを受けた、株式売り・債券買い(利回りは1年7カ月ぶりの低水準)による円高だったからだ。また24日も109.30円まで円高が進んだ。4月の米耐久財が前月比0.9%減少/米景気減速懸念からの円買いだった。

 どうリスクヘッジと取り組み社債・事業債運用で外貨建て利益を生み出しても、104円の円高ともなればその益は雲散霧消してしまいかねない。(記事:千葉明・記事一覧を見る

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