元外交官に聞く中国共産党によるオーストラリアへの浸透工作(3)

2017年7月4日 12:45

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記事提供元:フィスコ


*12:45JST 元外交官に聞く中国共産党によるオーストラリアへの浸透工作(3)
 豪州メディアの共同調査で、少なくとも5人の中国系人物が政治界への巨額な政治献金と賄賂を通じて、同国の内政に干渉してきたことが明らかになった。このほど、大紀元の取材に応じた駐豪シドニー中国総領事館の元一等書記官でベテラン外交官・陳用林氏は、中国共産党によるオーストラリアへの浸透工作の詳細を語った。

■豪の元貿易相が中国企業「嵐橋集団」の顧問を務める


 中国当局は、また中国資本企業を通して、豪州に対して浸透工作を行っている。豪政府の退職した職員や官員らを中国企業の顧問に就かせることで、人心の収らんを図っている。


 豪ABC放送は今回、アンドリュー・ロッブ前貿易相が中国人富豪で、約5億オーストラリアドル(約425億円)でダーウィン港を99年間リースした中国企業「嵐橋集団(ランドブリッジ)」の葉成と近い関係にあると報道した。同報道では、ロッブ氏は貿易相在任中、中国当局との二国間自由貿易協定(FTA)をめぐって交渉を行った際、人民解放軍出身の葉成と接触し、嵐橋集団は中国の「民間企業」とされているが、軍とは密接なつながりがある、とした。


 また同報道によると、ロッブ氏は昨年豪州総選挙前に貿易相を辞したが、しかしその直後に嵐橋集団の社員給料名簿に同氏の名前が現れた。ロッブ氏は、毎月7万3000オーストラリアドル(約621万円)の給料を受け取っているという。


 さらに、2014年豪政府が中豪FTAの締結を決める際、中国系富豪の黄向墨がロッブ氏に10万オーストラリアドル(約850万円)の政治献金を行った。


 「ロッブ氏に関して最大な批判は、昨年国会議員を辞任した直後に年収88万オーストラリアドル(約7480万円)の嵐橋集団高級経済顧問に就いたことだ。これは、豪政府内閣の機密保持との原則に違反している」と陳用林氏が指摘した。


 また中豪FTAは、豪州の貿易拡大に有利だが、豪政府は国家安全や国内政治において中国当局に大きな譲歩をしたという。「例えば、ダーウィン港の件や、中国政府系ファンドによる豪州の農畜業への莫大な投資。さらに、中国と豪州の両国の司法制度が全く違うにもかかわらず、豪政府は連邦議会に対して『豪中犯罪人引き渡し協定』批准を推し進めた」。

■中豪FTAで利益得るのは中国既得権益層


 いっぽう、中豪FTAの恩恵を最大に受けるのは中国の既得権益層で、最も打撃を受けるのは中国農村部の農民で農畜業の従業者たちだと陳氏が分析する。


 「実に、元駐豪大使の傅瑩氏(現第12回全国人民代表大会常務委員会委員)が2005年に中国当局の指導部に対して、中豪自由貿易協定について中国にとって経済的な損失をもたらすが、『政治的や戦略的に見れば大きな成果を見込める』との意見書を提出した」「このため、中国当局が中豪FTAの締結交渉を始めた。しかし、経済的な損失が大きいとされ、胡錦涛政権では、なかなか締結に踏み切れなかった。豪政府が政治的な譲歩をしたのを受けて、政治的な利益は経済的な利益より大事という中国共産党の原則の下で、習近平政権がやっと締結に踏み切った」と、陳用林氏が、中豪FTA締結をめぐる中国当局の思惑を説明した。

■豪政府、「犯罪人引渡協定」批准案を撤回


 豪のビショップ外相は今年3月28日、中国当局との「犯罪人引渡条約」を批准する議会承認案を撤回すると発表した。この条約は、2007年にジョン・ハワード保守連合政権が中国との間で署名を交わされたが、中国の司法制度への懸念から、議会ではいまだに批准されていない。


 陳氏は「この条約自体が、中国当局が豪政府の政策運営に対する妨害を表した」との見解を示した。


 「3月22~26日に豪州を訪問した李克強首相に対して、豪政府は同条約の批准に向けて推進していくと約束した。しかし国内多くの議員や法曹界専門家などからは反対意見が挙がった。意見の多くは、中国司法制度の公正性や、または中国当局が同条約を利用して自らの目的に果たすのではと疑問視した。」


 「4月下旬に、孟建柱・中国共産党中央政治局委員が訪豪した際、豪国会が犯罪人引渡条約の批准をしてくれれば、豪州産牛肉への関税引き下げを早めるとふたたび言及した。中国当局にとって最も重要なのは、経済利益ではなく、同条約の政治的利用であることがわかる」と陳氏が分析。

■ 前職と現職外相も中国当局とつながりがある?


 豪ABC放送の報道に対して豪州国民の間で大きな反響を呼んだ。議会においても、与党の保守連合と最大野党の労働党が、互いに批判している。ジュリー・ビショップ現外相(保守連合に参加する自由党出身)は、自由党最大政治献金者である中国系女性富豪のサリー・ツォウ(SallyZou)が設立した「ジュリー・ビショップ栄誉基金」との関連性について追及されている。ビショップ氏は基金について把握していないと反論した。


 また、ボブ・カー前外相も昨年に、前述の中国系富豪の黄向墨と周沢栄の関係で豪メディアに追及された。


 黄はシドニー工科大学(UTS)の「豪中関係研究所(ACRI)」の設立に180万オーストラリアドル(約1億5300万円)を寄付した。黄は同研究所の会長だったが、現在は会長職を辞任した。カー前外相は同研究所の所長を務めている。


 周とカー前外相の関係は、カー氏がニューサウスウェールズ州首相だった当時にさかのぼる。2004年に、周が同州で中国政府系メディアとともに、中国語新聞「新快報」を設立した際、カー氏から強い支持を得た。カー前外相は当時、周の娘を州政府の少数派住民政策の顧問に任命した。


 陳用林氏は「現在豪政府内の多くの政策決定者が、中国当局に影響されている。当局の豪州政界への浸透は非常に深刻だ」と述べた。

■豪政府が外国政治献金を制限に与野党はどう対応するか


 中国当局が富豪らを通じて、巨額な政治献金を行い、豪でのの影響力を拡大しようとしていることに警戒を持ち始めた豪政府は6月上旬、スパイ関連法を見直し、外国による政治献金禁止の動きが出た。


 しかし陳氏は、中国当局による金銭外交・金銭浸透工作で豪州の与野党内部で混乱が続いており、豪州の民主制度は莫大な中国マネーの攻勢を受けて、衰退しつつあるとの見解を示した。「多くの豪州国民は、与野党が中国当局と癒着していることを夢にも思わなかっただろう。今回、豪メディアが大々的に中国当局の浸透工作を報道したことで、豪州国民は今までなかった強い警戒意識を持つようになるだろう。」


 (おわり)

(記者・駱亜、翻訳編集・張哲)

【ニュース提供・大紀元】《FA》

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