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証券業界決算、4~6月期底に株価回復で下半期へ明るい希望もあるが
■総合証券は国内・個人の悪さを他部門で補って業績悪化に歯止め
10月28日、証券業界主要5社の2016年4~9月期(第2四半期)決算が出揃った。
日経平均株価は、4~6月期の3月31日から6月30日にかけては1182.75円下落したが、7~9月期の6月30日から9月30日にかけては873.92円、反発した。海外のマーケットも総じて6月の英国のEU離脱ショックからの回復をみせている。
総合証券は、4~9月トータルでは対前年同期比で業績が悪化しても、野村HDは7~9月の四半期だけ取り出せば増収増益で、大和証券Gも前年度の10~3月期に比べれば増収増益だった。総合証券は海外事業の損益が黒字に転じるなど、懸命なリストラが体質改善効果をあげている。日経平均株価は10月、28日までに996円も上昇し、幹部は下半期に向けて明るい希望を語る。
しかし、その7~9月期の東証1部の売買高は20億株、売買代金は2兆円に届かない薄商いの日々が続き、「夏枯れ」と言われながら秋になっても続いている。日本では個人株式等売買代金(フロー)の8割以上はオンライン証券7社(カブドットコム、松井、マネックス、SBI、楽天、GMOクリック、岡三オンライン)が占めており、個人投資家の株式、投資信託の売買手数料への依存度が高いネット証券会社にとっては依然として厳しい環境が続いている。
カブドットコム証券、松井証券、マネックスGとも減収減益で、4~6月期と比べると減収幅も減益幅も拡大しており、マネックスGに至っては最終赤字に転落してしまった。4~6月期は業績をかろうじて支えてくれたFX(外国為替証拠金取引)も、為替市場のボラティリティ(変動率)が低下した7~9月期は取引高が減っている。
「アベノミクス相場」といわれた2012年11月以降の上昇相場では、株式や投信の売買が活発になりネット証券は手数料収入が拡大し増収増益を続ける一方、総合証券は総じて、海外事業に足を引っ張られ業績が伸び悩んでいた。ところが現状は様相ががらりと一変し、国内の個人向け手数料収入の不振をアセット・マネジメント、法人向け、海外事業など他部門で補って業績の悪化に歯止めをかけられる総合証券に対し、国内の個人向け手数料収入に全面依存するネット証券の業績はただ落ち込むばかりになっている。小売業のディスカウントストアと同じで、安い手数料を売り物に集客する「薄利多売型ビジネスモデル」は、客足が遠のくともろい。
なお、今後のマーケットの動向に大きく左右される2017年3月期の業績見通し、予想期末配当、年間配当は、証券業界の慣例で各社とも非公表となっている。
■「薄利多売」で国内・個人に依存するネット証券の業績は悪化する一方
2016年4~9月期の実績は、野村HD<8604>は収益合計8.8%減、収益合計(金融費用控除後)9.9%減、税引前四半期純利益14.8%増、最終四半期純利益6.3%減の減収減益。中間配当は前年同期比1円減配の9円とした。上半期、海外事業は金利変動が大きくなったことで債券売買が活発になり、コスト削減も進んだことで税引前損益が前年同期の赤字から黒字に転化するなど好調だったが、国内事業は個人投資家の売買手数料収入が減少し減収、最終減益を余儀なくされている。永井浩二・グループCEOは上半期の業績について「欧州・米州ビジネスの戦略的な見直しによって海外の収益性が改善したこと等により、高い利益水準を確保した」とコメントしている。
7~9月期だけ取り出すと四半期純利益が31%増になるなど増収増益。営業部門は増収増益で投資信託の販売も投資一任業務も純増だった。アセット・マネジメント部門も市況の回復、ETFなどへの資金流入で運用資産残高が増加をみせている。4~6月期も堅調だったホールセール(法人)部門は引き続き高い利益水準を確保。北村巧・財務統括責任者(CFO)は「アメリカの大統領選、(12月の)FOMCを通過すれば市場の霧は晴れてくる」と、個人部門の下半期の巻き返しに期待を寄せている。
大和証券G<8601>は営業収益15.0%減、純営業収益17.6%減、営業利益37.3%減、経常利益33.3%減、四半期純利益20.5%減の2ケタ減収減益だったが、4~6月期よりも減収幅、減益幅がおおむね圧縮している。中間配当は前年同期比4円減配の13円とした。海外事業はコスト削減などの経営努力が効果をあげて全地域で黒字化し、経常損益が前年同期の赤字から51億円の黒字に転換している。ホールセール(法人)部門も債券取引が活発になり8%の経常増益だったが、リテール(個人)部門は株価低迷とともに株式、投資信託の売買が不振に陥り手数料収入が落ち込んだ。リテール部門の経常利益は74%も減少している。
それでも4~9月期は前期の10~3月期に対しては増収増益になっており、夏場以降の東京市場の株価回復で下半期の業績復調に期待をかけている。小松幹太・最高財務責任者(CFO)は「投資家のマインドは今が底。徐々に回復してくる。今後は投資家が戻ってくる」とコメントしている。中間期決算発表に合わせて発行済株式数の1.77%相当の3000万株、200億円上限の自社株買いの実施を発表した。
カブドットコム証券<8703>は営業収益22.0%減、純営業収益22.7%減、営業利益46.5%減、経常利益45.5%減、四半期純利益38.9%減で、2ケタの減収減益で4~6月期と比べて減収幅も減益幅も拡大した。中間配当は前年同期と同じ6円とした。4~6月期に落ち込んだ平均株価は7~9月期は反発したが、個人の株売買は引き続き低迷。株式委託手数料収入は4~6月期の22%減から26%減へさらに落ち込んで業績を直撃した。2012年11月から始まったアベノミクス相場のもとで最低の水準になったという。
「一日信用取引」の導入などを通じ個人投資家の拡大に力を入れてきた松井証券<8628>は、営業収益25.9%減、純営業収益25.4%減、営業利益39.8%減、経常利益39.5%減、四半期純利益40.8%減の大幅減収減益。減収幅も減益幅も4~6月期からさらに拡大した。中間配当は前年同期比12円減配の13円とした。4~9月期は株式市場が軟調で個人の株売買が低調になり、株式等委託売買代金は12%減(4~6月期は7%減)。営業収益の受入手数料収入は28.5%も減った。
マネックスG<8698>は営業収益23.9%減、税引前利益97.9%減、四半期損益は1.7億円の赤字、四半期純損益は1億円の赤字。4~6月期はかろうじて最終黒字だったが、中間期では最終赤字に転落した。中間配当は前年同期比4.4円減配の2.6円とした。マネックス証券は個人投資家中心の収益構造なので株価、株式の売買低迷の影響をもろに受け、トレーディング収益も金融収益も減少続き。人員削減などリストラを進めてきたアメリカ事業も中国事業も収益の挽回に至らず、赤字決算を余儀なくされた。(編集担当:寺尾淳)
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