【建設業界の2016年3月期決算】工事採算が改善し前期最高益を更新しても、今期は労務費、資材価格の反転上昇を警戒

2016年5月19日 10:46

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記事提供元:エコノミックニュース

 5月13日、建設業界大手4社の2016年3月期本決算が出揃った。最終利益は大成建設、大林組、鹿島は3ケタ、清水建設は2ケタの大幅増益で、揃って過去最高益を更新。営業利益は90年代前半の「バブル期」以来の高水準をマークした。

 2020年の東京五輪に向けて首都圏では都市再開発も、インフラ投資も、オフィスビルなど民間の不動産投資も引き続き高水準を保っている。一方では人手不足を背景に上昇が続いた建設作業員の労務費がようやく天井を打ち、鉄骨、鉄筋やセメントなどの資材価格は資源価格の世界的な下落に伴って低下。工程管理の厳格化などで現場の工事採算を改善する努力も実を結び、完成工事総利益率は各社とも2ケタ台に乗せている。それが業績面で利益を押し上げる原動力になった。

 しかし、2017年3月期の今期見通しは、前期は一服していた労務費、資材価格の上昇が再び到来することを予想して、最終増益は清水建設だけ、営業利益は全社減益と、各社とも保守的な数字が並んでいる。今期中に新国立競技場が本格着工するなど五輪関連工事は佳境を迎え、高い技術力を持ち賃金水準が高い熟練作業員の出番が増えて労働需給がひっ迫しかねない。原油や鉄鉱石などの資源安もいつまで続くかわからず、資材価格も反転上昇するリスクをはらんでいる。ゼネコンのコストとの戦いは、まだまだ終わらない。

■完成工事総利益率を2ケタに乗せ、最終利益は過去最高益を更新


 2016年3月期の実績は、大成建設<1801>は売上高1.7%減、営業利益66.8%増、経常利益58.1%増、当期純利益101.8%増の減収、大幅増益。最終利益は約2倍で1992年3月期以来24年ぶりの過去最高益更新。年間配当は8円増配の16円で2倍。受注高は1兆6711億円で5.3%減。売上高は土木が約3%減、建築も微減だったが、手持ち工事の採算が改善し、受注案件も好採算案件の比率が高くなったため土木も建築も利益率は改善した。完成工事総利益率は4.5ポイント増の12%で、それが増益の基盤になった。その上に退職給付信託の返還に伴う特別利益が計上され、最終利益は約2倍に増えた。

 大林組<1802>は売上高0.2%増、営業利益119.8%増(約2.2倍)、経常利益85.6%増、当期純利益121.1%増(約2.2倍)の増収、最終3ケタ増益で過去最高益更新。年間配当は8円増配して18円。受注高は1兆9519億円で2.7%増だった。首都圏中心に東京五輪にからんだ再開発工事、都心部のオフィスビルの建て替えなど需要は旺盛。工事採算の改善で完成工事総利益率は4.1ポイント増の10.1%と2ケタに乗せた。

 清水建設<1803>は売上高6.2%増、営業利益89.2%増、経常利益69.8%増、当期純利益77.6%増の増収、大幅増益。最終利益は25年ぶりに過去最高益更新。年間配当は8円増配の16円で、2倍になった。受注高は1兆3419億円で7.4%減。国内では首都圏の再開発やインフラ需要が増加。労務費が頭打ちで鋼材など資材価格の下落も効いて工事採算が改善し、完成工事総利益率は3.2ポイント増の10.5%。

 鹿島<1812>は売上高2.9%増、営業利益777.0%増(約8.7倍)、経常利益430.7%増(約5.3倍)、当期純利益377.7%増(約4.7倍)の増収、3ケタ増益。最終利益は24年ぶりに最高益を更新した。年間配当は7円増配して12円。受注高は1兆2368億円で3.6%増。売上高は土木が11%増、建築が6%増。東京都心部の再開発事業など進捗した手持ち工事で、労務費や資材費が想定より低く抑えられた好採算の案件が多かったおかげで売上総利益率は5.7ポイント増の11.4%と倍増。それが3ケタ増益の原動力になった。

■労務費、資材価格の上昇を織り込んだ保守的な見通し


 2017年3月期の通期業績見通しは、大成建設は売上高0.4%減、営業利益14.9%減、経常利益15.0%減、当期純利益9.1%減の減収減益を見込む。予想年間配当は16円で据え置き。受注高予想は前期比1.8%減。土木部門の労務コストの上昇で利益が抑えられる見込み。円高で為替差益も期待できない。受注した新国立競技場は下半期に本格着工する予定だが、総予算が当初構想から約4割も削られた上に工期が3年程度しかなく、実績にはなっても業績にはあまり貢献しないプロジェクト。決算発表と同時に19年ぶりの自社株買いを発表し、中期計画も上方修正した。

 大林組は売上高7.7%増、営業利益10.7%減、経常利益11.4%減、当期純利益0.7%減の増収減益を見込む。予想年間配当は18円で据え置き。受注高は5.2%減の1兆8500億円の見通し。増収については道路や橋など老朽化したインフラの更新工事の受注増を要因に挙げる。しかし国内の土木事業では好採算の工事が前期より減り、労務費の上昇も影響し利益率は低下するとみている。「宇宙エレベーター」の要素技術の研究を進めているが、定款を変更して事業目的に「宇宙開発」と、水素発電を活用した街づくり構想に合わせた「燃料の製造・販売」を加えた。

 清水建設は売上高5.7%減、営業利益0.7%減、経常利益0.5%増、当期純利益9.6%増の減収、最終増益で2期連続の過去最高益更新を見込む。予想年間配当は16円で据え置き。受注高は4.3%増の1兆4000億円の見通し。準備期間が長い大型工事が多いので減収になるが、受注では東京外かく環状道路など東京五輪に向けての首都圏の再開発、インフラ需要の取り込みを見込む。それでも労務費、資材価格の反転上昇を警戒し工事採算改善の努力は継続。最終増益になるのは前期より特別損失が減少すると見込むため。

 鹿島は売上高9.0%増、営業利益23.5%減、経常利益20.6%減、当期純利益17.0%減の増収減益を見込む。予想年間配当は12円で据え置き。受注高は1.1%増の1兆2500億円を見込む。労務費や資材価格の上昇を織り込んで、売上総利益は前期の11.4%から9.2%に低下するとみている。(編集担当:寺尾淳)

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