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がんの10年生存率60% あなたはどう生きる?
がんになったら10年後に生きている確率は60%――。がん治療の総本山ともいえる国立がん研究センターは、がんの10年生存率を初めて集計し、公表した。全部位を平均すると58.2%で、部位別にみると1ケタから90%まで差がついた。
生存率の算出は、死亡者の実数からがん以外の原因で死亡する可能性に強く影響しうる要因(性、年齢など)を補正して行う(相対生存率)。今回の集計は、1999年から2002年に診断治療を行った16施設35,287症例について分析された。
その結果、10年生存率が高かったのは甲状腺がん(90.9%)、前立腺がん(84.4%)、乳がん(80.4%)、子宮頸がん(73.6%)など。最も罹患数の多い大腸がんは69.8%だった。逆に厳しい数字が出たのは肺がん(33.2%)、肝臓がん(15.3%)、膵臓がん(4.9%)などだった。
10年後の生存率が推計されたことに加え、今回注目されたのが5年生存率との比較だ。がん治療では、5年生存することを1つの目標とするところがある。5年の全部位平均では63.8%だったので、続く5年間で5%ほど死亡率が高まったことになる。これも部位によって大きな差があり、胃がんは5年の70.9%から69%に、大腸がんは72.1%から69.8%と大きな差はなかったが、肝臓がんは5年の32.2%から15.3%に大きく落ち、乳がんは高い数字ながらも88.7%から80.4%とマイナス幅は大きかった。
平均60%の10年生存率が高いか低いかは、どの部位のがんに罹患したかに大きくかかわるので一概には言えない。そして、問題になるのが、その間の過ごし方だ。患者は治療後、医療機関からなるべく早く在宅に戻ることが求められる。「がんになったら人生は終わり」と思っていたのはとうの昔で、今は「がんサバイバー」としての生き方を考えなければならない。若くしてがんを患った場合には、就労という問題が浮かび上がる。
国でもそのあたりは気にしていて、2012年の第2期がん対策推進基本計画に全体目標の1つとして「がんになっても安心して暮らせる社会の構築」を明記した。さらに個別目標として「がん患者の就労を含めた社会的問題」が盛り込まれた。しかし、実際はというと、がんサバイバーたちは厳しい状況に置かれている。社会復帰しても闘病前よりもパフォーマンスは落ちているし、定期的に通院しなければならないが、それを理解してもらいにくい。次第に肩身が狭くなってストレスもたまり、病気にも悪影響を及ぼしたり、退職に至ったりということも少なくない。一方で、こんな例もある。ある20代の女性は、会社の会議で「私はがんになり、今もつらいことがあります。でも働こうとしている自分に誇りを持っています」と打ち明けた。それまで腫れものに触るようだった周囲も、堂々と話す彼女の真意が分かり、コミュニケーションがスムーズになったという。
さらに高齢者のがんサバイバーの問題もある。自宅で寝たきりになって10年生き続けるケースもある。認知症になることもある。周囲の介護負担は大変なものだ。「10年後、60%生存」をどのようにとらえるか。2人に1人ががんになる時代、人ごとではない。「がんサバイバー」の生きやすい社会の構築は喫緊の課題だ。(編集担当:城西泰)
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※この記事はエコノミックニュースから提供を受けて配信しています。
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